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3 ――疑惑の中の確信――

――中央地区セントラル第三区画。一四時三五分現在――



 ナツメ達が託された仕事を達成するために三課ビルを出てから暫く経った後。


 三嶋が運転する、薬物の中毒症状の現れた数人を乗せるトラックは、委員会本部ビルの前に停止した。


「能力の発現の可能性や才能が無い奴はただの依存症に。センスがある奴は一時的に覚醒状態になるけど、能力に体が付いていかなくて――――仮死状態、か」


 呼吸もせず体温が低いが、鼓動は弱々しいもののしっかりと刻まれる。トラックの荷台に雑なまでに乗せられる彼等は皆そんな状態であった。


「だけど、精神力が弱い奴はこの状態のまま死んじまう。他の影響で能力を得るってのは、そんなリスクがあるてぇんだからなぁ」


 能力とは、いわゆる精神の具現化である。潜在下で強く望むことや、その人間の本質を、肉体や物質に特殊な影響を及ぼすことで、本来ならばありえない現象を引き起こさせる。


 だから能力を使えば使うほど疲弊するし、このような強制的な発現方法では、精神の弱い人間は肉体ごと死んでしまうこともある。


 トラックから降りて呟く三嶋は、腰から拳銃を引き抜きながら、隣にやってくるアキラに声をかけた。


「正面突破は厳しいぜ? やっぱ、ちゃんと作戦を――――」


 正面玄関には警備員は配置されていない。だが、広いロビーに入る其処は、派手に侵入すれば格好の的である。


 三嶋には能力が無い。だがその代わりに豊富な経験があるのだが――――だからこそ、不安だとか実力不足だとか言う理由ではなく、その行動が愚かであることが十分に理解できるのだ。


 彼の、アキラの目的は委員長に会う事。その顔面を殴り飛ばしてやりたいそうなのだが、その為には確実に委員長の居る部屋に行かなければならない。


 正面からの侵入はそれを不可能、または手こずらせる力を持っている。彼はここに来るまで幾度と無くアキラへと言い聞かせた言葉であったが――――。


「関係ねぇよ、真っ直ぐ突き破る。それだけだ」


 台詞半ばを遮って聞かせる返答は変わらない。最も、一度決めたことをそう簡単に変えてしまうような男ならば、三嶋もここまで長く親しく付き合うことも無かっただろう。


「あぁそうかい」呆れたように、彼は息を吐いて「だったら勝手にしな」


 三嶋の言葉を聴いているのかいないのか、アキラは真剣な眼差しで、だがその口元だけは緩めていた。


「勝手にするさ。今までだってそうしてきたからな」


 選択は愚かだが――――目的とする結果に到るのは不可能ではない。この男と共ならば。


 いつものように、三嶋はそうして彼と共に前へと進みながら、自動回転式拳銃オートリボルバーの引き金に指をかけた。


「おい三嶋、一緒に来るか?」


 そうして彼等は、そう距離も無かったガラス張りの玄関戸の前に立ち止まる。三嶋は高鳴る鼓動を深呼吸で静めようとしていると、不意にアキラはそう問うた。


 まさか――――置いて行くつもりだったのだろうか。そんな不安や疑心が脳裏に過ぎった彼は、


「当たり前だろ? じゃなかったら、わざわざこんなリスク踏んでねぇよ」


 もし生きて帰れれば名が売れて、仕事がなだれ込む。三嶋が暖める金持ち化計画の一つであるが、その代わりに、即座に警察では捕獲できないと判断されて、委員会に狙われる。


 この場合は、利益とリスクを比べると圧倒的にリスクの方が勝っているのだが――――そんな事も、アキラが居ればなんとかなりそうな気もしてくる。


 だからそんな意味も込めて、三嶋は元気良く答えると――――「あぁそうかい」なんて彼の言葉を真似るように返した後、アキラは三嶋の腕を肩に掛け、腕を腰に回した。


「んあ? おい、俺ぁそんな趣味は――――っ!?」


 妙な雰囲気に飲み込まれそうになる三島は、そう口走る事によってしっかりと自分の世界を確立する事が出来たのだが――――次の瞬間、不意に消えうせた地面に、突然全身に降りかかる加重に、体中を嬲る風圧に、彼は思考を手放した。


 ――――彼等はいとも簡単に、高く、強く、その空へと跳び上がる。


 地面を、持てる力全てを使って弾いて飛び上がったアキラは、思った以上に高く飛びあがる体に少しばかり驚く。だが、この程度ではまだまだだと、戒めるように唇を力強く噛んだ。


 風を切る二人の身体はグングンと天空を目指すが――――無情にも徐々に失速し、およそビルの八階部分で、ついには完全に停止する。


「お、おい」


 腹の臓腑が嫌な冷たさを走らせる。体中の全てが縮み上がって、身体は先ほど以上に気持ちの悪い浮遊感を覚えていた。


「黙ってろ。舌噛むから」


 そうして彼等が、跳び立った地面へと吸い込まれるように落ちていく中――――何も無いその身体は、その何も無い空中で不意に、弾かれた。


 上空へ。目指す上階部へと。


 衝撃が波状となって空中に輪を作る。彼等の動きを察知できない空気は壁となって、彼等の全身によって突き破られていった。


 強い衝撃に、また身体が、視界が大きくブレる。風が肌を大きく揺さぶり、まともな呼吸も出来ない。凄まじい強風が、衝撃と共に全身を痛めつけていた。


 ――――そんな気分の悪い浮遊感を覚えるのも早数時間か。そう感じる数十秒の間、その上昇を幾度か繰り返して、


「おい、アレか?」


 遥か上空、地上に置いてきたトラックが手乗りの模型程に見えるほどの高さにまで飛び上がると、突然アキラがそう聞いた。


 何のことだろうかと、そう思って彼が向くビルへと目を向けると――――そこには血のように紅いビジネススーツを着る女性が、窓の奥でこちらを見ていることに気がついた。


 彼女は――――新聞で一度、写真が掲載していたので見た覚えがある。それは確か、治安維持委員会委員長の就任式の事で……。


「あぁ、あの人だ」


 つまりは彼女が委員長。アキラがその顔面をぶん殴りたいと激昂していた人物も彼女である。


 目標は見つかった。アキラはそんな風に口角を上げて、歯を剥き出しに笑うと――――また先ほどの様に、自身を能力で強く弾いた。


 今回は下から弾くのではなく、横から。それはまるで巨大なハンマーに殴り飛ばされたような外力と、速度を誇って――――勢いに全てを任せて突撃するアキラは、大きく振りかぶった拳を、迷うことなくその窓へと突き刺した。


 ガラスは空気を切り裂く甲高い音をやかましく鳴らして、その中を彼等は飛び入った。


 そこから床を幾度か転がり、勢いを殺して、アキラはすぐさま立ち上がり、彼女を睨む。


「テメェか、治安崩壊委員の委員長ってのは」


 三嶋はガラスで身体に切り傷を作って、彼が啖呵を切るその間に、ようやく立ち上がることが出来ていた。


「――――横暴な男性ひとですね。建物へは玄関から入りなさいと、教わらなかったのですか?」


 だが決して慌てることなく、落ち着いた様子で、口調で、彼女――――華月はなつき委員長は静かに、事務机の引き出しから拳銃を抜いた。


 そんな返答に、行動に、アキラは嫌らしい笑みながら語気を荒げた。


「んじゃぁよ、人の質問にはしっかりと答えなさいと、アンタは教わらなかったのかよ!?」


 彼等の台詞は、抵触するだけで決して交わるものではない。それでもしっかり交錯するのは、殺意と視線、それだけである。


「貴方達は、中央地区セントラルへの招待資格は無かったはずですが……?」


「なんでンな事がアンタに分かるんだよ」


 拳と拳銃は、互いを共に突き刺すように向けられたまま。


 三嶋はただソレを、呆然と聞き、見ているだけしか出来ずに居た。


「さぁ、何故でしょうね」


「テメェ……ッ!」


 そんな惚けた言葉に、表情に――――アキラは我慢の限界を突き破って飛び出した。


 能力で地面を強く弾き飛ばし、凄まじい速度で勢い良く飛ぶ様に彼女へと襲い掛かるのだが――――まるでソレを予測していたかのように、その姿は直ぐに視界の外へと消えていった。


 殴り抜けて突撃の勢いを殺すはずだった目標が消えうせた今、彼は――――自分の正面に能力を発動させ、自分を殴り飛ばす。


 自身の能力で挟み撃ちされてダメージを受ける彼だが、下手を打って外に飛び出し、落ちるよりは遥かにましであった。


 だが――――だからといって、彼の怒りが収まる筈が無い。暴力で解散されると思ったストレスは、自分に向けても誰に向けても、彼の中で永久的に増幅していくだけであった。


 ――――薬物を、罪も無き貧民の弱みに付け込んで売り捌き資金を得る一方で、戦力に、実験体に為り得る存在を回収する。


 これはなんたる外道の極みだろうか。一体どんな鬼畜の所業だろうか。彼の怒りは、如実に頂点へと迫っていた。


「仮にも、治安維持を掲げている団体が……」


「はい。貴方達が面倒を起こさない限り、私達の仕事ははかどるのですが」


 斜め後ろ。壁際に立つ彼女は慣れた様に嫌味を吐くが、殺気立つアキラはソレに促されずとも行動を起こした。


 再び、地面を弾いて――――彼女へと突撃する。


 だがしかし、再び彼女はその場から失せて、アキラは壁を殴り、其処を中心に亀裂を入れるだけなのだが――――。


 直後、乾いた破裂音が、その背後で響いた。


「豆鉄砲をッ!」


 だがしかし、この明るい中で放たれた弾丸は、いくら背後から撃たれたと言っても弾くことは容易である。伊達に死線を潜り抜けていない彼は――――いつもの様に、銃弾を発砲主へと撃ち返した……が。


「豆鉄砲を?」


 直後、鈍い冷たさを伝える何かが、その後頭部に突きつけられた。


 疑問を呈する凛とした声の後、再び、聞きなれた銃声はやかましく耳元で掻き鳴って――――咄嗟の判断で下げた頭は、銃弾が皮膚を抉るだけの被害に抑えていた。




「アキラぁっ!?」


 ――――それを、未だ入り口付近で見守る三嶋であったが、彼には手を出せない世界であることは瞭然としていた。


 常人を逸する、物理法則を無視した動きで、凄まじい速度で動き回るアキラに、ソレを軽々とあしらう華月。


 華月に到ってはただ小走りし奇襲するだけなのにも関わらず、アキラを押している。そして上手い具合にアキラと重なるので銃撃えんごする隙も無い。


 彼はただ、自身の気持ちを肩代わり、自身の怒りをぶつけるアキラを応援することしか出来ずに居た。




「――――よくも」


 再び空気を揺るがした発砲は、アキラが能力を発動するよりも早く右の太腿を後ろから貫いた。


「……、貴方の行為は犯罪です、が――――」


 アキラは力なく、背を向けたまま、壁を見つめたまま、腰を僅かに落とす。それは攻撃の予備動作などではなく、太腿の痛みに堪えられなくなったからである。


 彼の能力の発動は、範囲が狭い故に高速である。それは正に、零距離で撃ち放たれた弾丸を、傷つきながらも跳ね返せるほど。


 だというのに、彼女はその能力を発動させる数瞬前に銃弾を撃ちこんだ。いくら高速で展開出来るとは言え、背後のギリギリ範囲外の距離からでは、そのタイミングは少しばかりズレる。そして、戦闘での”少しばかり”は、かなりの大きさである。


 そして撃ち抜かれた弾丸を反射しても、銃弾は既に次の行動を起こす華月に当たる事は無い。


 運が良いと言うのか――――はたまた、彼女が能力者だと言うのか。


 後者だろう。間違いないと、アキラが確信すると――――珍しく声を僅かに震わせた彼女は、言葉を続けた。


「貴方達の目的は、一体なんでしょうか?」


「あぁ? しらばっくれんなよ……テメェ。アンタが、指示したんだろうがよ」


「そんな事は聞いていません。目的はなんでしょうか、と――――」


「るせぇッ!」


 不測に――――アキラの弾く範囲が極端に膨張して、華月はそれに巻き込まれるや否や、易く対面の壁へと吹き飛ばされ、その背を強く叩き付けた。


 衝撃が音となって響き、胸を押さえて激しく咳き込む。そんな彼女の手には、拳銃が失われていた。


「当事者は皆幸せで、傍観者は皆不幸せな、そんなクスリを配って居られる委員長さんよ……。知ってるか? 薬物売買ってのは、犯罪なんだぜ」


 落とした自動拳銃を拾い上げ、彼は足音を鳴らしながら華月へと歩み寄る。


「おい待てよ。委員長は十分痛めつけたし、十分だ。殺したら洒落んなんねぇって!」


 引き金に指をかけて、痛いはずの足も引きずらないアキラを抑える三嶋だが、彼は肩を掴む手を引き剥がされて置いていかれた。


 表情も、呼吸も、声色も変えなかったはずの彼女は、ただそれだけで、全てを乱し――――アキラが目の前に立ち、その額に銃口を突きつけられてから、再び口を開いた。


「警備員がやってくるまで後一分もありませんが、貴方ならば私を殺した上で逃げられるでしょう――――その前に、話を聞いてもらえますか?」


 言い訳がましいかもしれない。また、彼の話すら聞いていなかった自分がそうすることはおこがましすぎるかもしれない。だが――――恨みを、誤った目標に向けられては困るのだ。だから、自分の命を犠牲にしても構わないから、部下には迷惑を掛けてもらいたくない。


 そんな強い思いが通じたのか――――アキラは銃口を突きつけたままではあるが、行動を停止した。


 優しいですね。そう一言かけてから、彼女は続ける。


「薬物に関しては、今初めて知る事になった……と言っても、恐らく貴方達は信じないでしょう。ですが、この――――事件には、新聞社が関わっていた。多分、もうそちらのほうが片が付いていると思いますが……」


 壁に背中を預け、力なく頭を垂れながら、大きく息を吸ってから、頭の中を整理した。


「私も正直、何がどのような事になっているかわかりませんが……、いえ。すみません、聞き苦しい話を。私が知らない話をしても、ただの命乞いにしか聞こえません――――どうぞ、引き金を……」


 女だてらと馬鹿にされ、感情に左右されないよう努力してきた彼女だが――――最後の最後で、感情が先行してしまった。


 だから殺される時ばかりは、潔く散ろう。相手は賊だ。どんな期待を持とうと無駄である。


 彼女が覚悟する間に、その額に全神経を集中させ、背筋に恐ろしいほど冷たい恐怖を現実味溢れるほどに感じていると、両開きの扉の外から心配の声を荒げながら駆ける足音が聞こえた。


『何事だぁぁぁぁぁぁッ!!』


「おいアキラぁっ!」


 叫び声の中で三嶋が急かす。早く委員長を殺せとではなく、ここは退こうと。


 だが怒りが、彼女の言葉によって蓋をされ、行き場をなくした憎悪が彼の頭の中で跳ね回り――――引き金にかかる指に、力が籠った、その瞬間。


「動いたら殺すぞっ!」


 ――――扉を突き破り、木片を辺りに飛び散らせながら叫ぶその声は、まだ生きている委員長を含めた全員の注目を引いた。


 その者は身の丈程の大剣を手にし、姿は見えぬが――――有り余る元気さと馬鹿力だけは、周囲に十分な理解をさせていた。


「だが貴様等は賊だろう。安心しろ、動かなくても殺す」


「アキラ!」


 駄々っ子のように幾度も名を繰り返す三嶋に、仕方なく銃口を外して拳銃を捨てるアキラは、その手を取って――――。


「俺は――――その潔さからアンタの言葉に真実を見る」


 駆け出しながら、華月にそれだけ叫ぶように言って――――破った窓から、躊躇うことなく身を投げた。


 大剣の女は、ソレを見るなり剣を背負い直して、華月に手を差し伸べた。


「今のは……?」


 華月はその手を力強く握り立ち上がって、まだ明るい外を眺めながら、不確定なことが多すぎる今の出来事に頭を振った。


「わかりません。ですが、近日中に何かが起こると思います――――、涼谷さん。今回は助かりましたが、あまり物を壊さないように」


 辺りを見てからはっとする華月は、大剣の女――――涼谷涼子に注意をしてから、また席に付き、パソコンを起動する。


 様々な意思の交じり合いがあり、また――――能力を深きにまで使用した故の疲労で、起こる頭痛に頭を抱え、


「委員を派遣させますので、早いところ西の二区画支部へ戻っては貰えないでしょうか……?」


「しかし今回の事件はあまりにも大きすぎますし、支部の仕事は知り合いに任せているので大丈夫ですから」


 また話の通じぬ、支部を抜け出してきた部下に、頭痛をより深刻なモノとさせられていた。



――中央地区セントラル第二区画。一五時五八分現在――



 全てが終わり――――彼等が知らぬところで、新たに何かが始まっている頃。


 彼等は爆弾魔ボマーの能力を持つテロ犯と、事実捏造、誹謗中傷、薬物売買を行っていた新聞社社長を、簡易収容施設へと置き、課長室へとその連絡に訪れていた。


 爆弾魔ボマーは、手の中に収まる程度の無機質を、様々な爆発物に変換する能力である。これを行ったお陰で、爆弾の型式も形も全て不明で、製造工場を突き止めることが出来ず、捜査は難航を極めていたのだ。


 だが全ては終えた。いくらかわだかまりはあるものの――――。そう考えながら、課長から「後は報告書で良い」と言い渡されて解散するのだが、


「ナツメ、お前は待て」


 一人だけその場に残されてしまった。



「なんでしょう」


 改まったように背筋を伸ばして聞くのは、ラバースーツを早く脱いでしまいたいからである。


 それを察したのか、長い前座を切り落として、課長は簡潔に告げた。


「先ほど、と言っても一時間以上前だがな……、例のアキラが、委員長の所へ侵入した。目的は分からんが、今回の薬物売買に関連しているようだった、と委員長は言っている」


「奴が、関わっているのですか?」


 委員長室へ突撃したという本題を差し置いて――――アキラに関する情報だけでも怒りを禁じえないナツメは、そこだけに食いつくが、課長は素っ気無く首を振って否定する。


「いや、奴等もソレについて激昂している様子だったらしい。恐らく、我々以上に、何かを知っているのだろう」


「奴等……?」


「あぁ。仲間が居たそうだ。歳は同じか近い様に見えたと」


 仲間――――あの堅そうなアキラがそんな場所まで連れる男だ。恐らく、相当信頼できる仲間なのだろう。


 そんな人間が居たことに驚きではあるが、それよりも、アキラが薬物売買に対して怒っていることに驚いてしまう。


 あの男が、他人に向けられる理不尽に対して怒るほどの”優しさ”があっただなんてことは予想外すぎるのだ。


 ナツメはそう思いながら、また彼と戦うことがあるのだろうかと、少しばかり期待する。


「そこで明日から一週間、特にお前にしか出来ないという仕事は無い。その間は、休みを……もとい、自由時間を与える」


 休み、休日なんてものは、昨日か一昨日くらい前に、自分から捨てた。全てはアキラを、テロ組織を止める為であるが、結局は個人捜査なので、どう行動しようとも自由。結局、捜査しようと休もうと思いのままなので、休日には変わりは無い。


「余暇を程ほどに楽しむが良い」


 言い直した課長ではあるが、それを察したのか気遣うように休暇を告げた。


 ナツメはそれにいくらかの恥を覚えながらも、深く頭を下げて、その場を去って行く。


 ――――あまりにも長すぎたこの一日は、そこでようやく終えることとなる。託されたばかりの仕事は、数時間で恐ろしく大きい物と変わるが、一時間と掛からずに氷山の一角――実質今回の事件分――は叩き潰された。


 ナツメはいつも通りに仕事をしたつもりだが、この東京まちではまともに仕事をしたことが無い。故に、たったそれだけでも彼の有能ぶりは、三課全体に広まる事となり――――。


 仕事以外の悩みも、相応に増えていくことになるのだが、それはまた別の話である。

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