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1 ――平穏の中の不穏――

――南地区サウスシティ第三区画。○九時五四分現在――



 「よ、元気してたか? 天下の便利屋アキラさんよぉ~」


 肩を貸す反政府テロ組織の仮拠点――寂れたアパートの一室――から抜け出し、持て余した資金で適当な店に入り朝食を済ましているアキラは、図々しく隣の席に座り、自身よりも少しばかり値の張った定食を頼む男を一瞥した。


 南地区サウスシティは治安が悪い。それ故に――半ば違法的に――仕入れる品物は質が良く、治安が悪い故に防犯対策の整った店が多いソコは彼等にとって居心地が良かった。


 中央で栽培される野菜や肉は破格の値段で横流しされる。そんな事が起こるのは、中央からの支給が酷く雑なモノであるためであったが、そのお陰で彼等は割合上等な食事にありつけている。


「羽振りがいいじゃねーか三嶋みしまさんよぉ。お前こそ儲かってんだろ?」


 目の前のカウンターに並ぶ主食、副食の皿を先に平らげ、ぬるい水が注がれたコップを空にしてから彼は言った。


 そこでようやく生姜焼き定食がやってきた三嶋は、割り箸を軽快な音を鳴らして割ってから、軽く肉を口の中に放り「いやいや」と首を振る。


 天井の大きなプロペラがやかましく廻るお陰で涼しい店内には、朝故に然程人は居ないものの、時が満ちればやがて人でごった返す。カウンター奥に居る店主は忙しそうに、その下準備を続けていた。


「お前が今回の仕事を成功させてくれたお陰だよ」


 アキラと三嶋の関係は大体ギブアンドテイクで成り立っている。説明は簡単で、三嶋があらゆる仕事を受け付け、必要なときは雇用主の信用担保代わりに捕らわれ、必要なときは道を作り、また必要なときは共闘する。


 アキラはただ三嶋によって敷かれた道を突っ走り、目的を奪還、もしくは撃破すれば良いだけの話である。


 だが今回、と言われても最近は反政府組織から頼まれる戦闘しごとばかりで、三嶋からは仕事などは受けていない。最も、全ては三嶋が反政府組織から受けた仕事が、アキラへと廻って来ているのかも知れないが……。


 だから、アキラはまたコイツは奇天烈な事をいうもんだな、などと眉間に皺を寄せながら睨んでいると、彼は軽く笑いながら、「ほら、病院の――っておい!」


 三嶋が箸の手を止めた途端に、アキラの腕はまるで一筋の閃光の様に素早く狡猾に、だが丁寧に精密な動きで一枚の肉を奪い去って行く。瞬く間にして口の中の深淵に飲み込まれた肉の切れ端を恨めしげな目で睨みながら、三嶋は仕方なく続けた。


「ほら、中央の病院にいったろぉ? アレだよ、ソレ」


「あぁ」アキラは納得したように頷いて、「でも、高々あの程度であの金額か? 要らねぇっつーわけじゃねぇけど」


「珍しく細かいことで。まぁ今回は侵入した際に出てくる障害よりも、助け出す目標の方が大切で、金額はそれに相応するモンだってことよ」


 目標かれらが口を割っていた場合は殺しても構わないと言っていたが――――プライドの高い彼をわざと挑発し、最初から生きたまま奪還させるつもりであったことが、三嶋のその台詞によって理解できた。


 アキラはそんな事に、小さく舌打ちをする。舐められたものだと溜息を吐きながら、三嶋の食事を眺めていた。


 三嶋は相応の金額だと言ったが――――その実、報酬は雇用主、つまりテロ屋から倍以上受け取っているのだが、中央への侵入と病院への侵入のリスク代、それとその他様々なリスク代や雑費を差っ引いて彼の分け前となっている。


 その金額は五分以上なのだが――――そもそもの報酬のが大きいお陰でアキラは気づかない。


 内心ヒヤヒヤしていた三嶋はそれでほっとして、それから一気に食事を終わらせた。


「アッキラくーん。お勘定頼むよ」


 ――――満腹故に機嫌の良い彼は冗談交じりの声で言い、得意気な顔で三嶋の手がアキラの肩に触れた瞬間、彼の顔面に拳がめり込んだ。


「払う金がねぇンなら全部吐き出しな」


 カウンターの奥から予測不可能な速度で客席へ繰り出される拳は、浮ついた三嶋の顔面を極端なまでに崩壊させる。渋く鈍く低い声は彼の心に突き刺さり、三嶋は涙を目に浮かべながら「冗談です」と土下座をする羽目となった。


 自業自得だとアキラは笑いながら吐き捨てて、一足先に彼は店を出る。出した金額で適当に料理を頼むので、彼の勘定は既に済んでいるのだ。


 ――――眩しく熱い日差しに出ると、彼はまくっていたシャツの腕を戻す。


 常ならば鬱陶しいくらい人が通っている道は、今日は特別通行量が少なかった。店のサッシの下の屋根、日陰へと退いたアキラは、それから直ぐに出てきた三嶋にソレを聞いた。


「あ? ああ、今日は配給の日だからな」


 配給日――――それは、政府から一定の支給を受けられる日である。一週間に一度、それは存在し、支給されるのは医療薬に食料、栄養剤などなど。どれも切り詰めれば一週間は何とか持つ量。


 アキラ達のように、力も持たず貧民の貧民たるを貫く民は、ソレにすがらなければ生きていけない。この世の大半は弱肉強食サバイバルであるのだが、政府の恩恵があるために絶対弱者が生きながらえているのだ。


 だが――――。


「最近、妙に配給受けてる奴多くねぇか?」


 一ヶ月、二ヶ月前よりその受給者は増えている気がしてならない。少なくとも一ヶ月、二ヶ月前は配給日などという、生活困窮を極める民にとっての充電日だと気づかされるほど、街の人間は減ったりはしていなかった。


 その多くの原因は、必ずその場で支給品の奪い合いや盗難が起こるからであった。


「ああ、なんか最近――――立会いの警察が、その立場を委員会に明け渡したって話があるが……、お陰で盗人が減ったんじゃねーの? だから安心して誰でも行けるとか」


「そんなもんかねぇ」


「少なくともなんかの作用だろ」決め付けるように、興味なさげに三嶋は言うと、それから直ぐに何かを思い出したように笑みを浮かべた。「へへっ、上手くいきゃ爆発テロの瞬間見れっかもしれねぇから見に行くか?」


 納得がいかないのか、首をかしげながらも頷く台詞を口にするアキラに、三嶋はふざけるように彼を誘う。


 だがアキラは、自分が一体何を知っている前提で連れて行こうとしているのか分からなかった。だからただ一言「テロ?」と反芻するように繰り返すと、


「ああ、実は昨夜ゆうべ、いや今朝だったかな。北の、クスリを違法に売りさばいてる店が爆破されてよ。その筋の間では早速噂されてんだよ」


 仕事請負人として情報屋ほどあらゆる情報を知り、素早く手に入れる彼は、わざと知らぬ情報をさも相手が知っているように言ってから興味を引いてから、詳細を口にする。


「なんで」そしてアキラは思惑通りに聞き返した。


「罪を赦さぬ爆弾魔ってさ」


「なんだそりゃ。ソイツ自身が罪に溺れてるじゃねぇか」


「その矛盾さが良いらしいぜ。俺にゃちょっとわかんねーけどさっ」


 大きく伸びをして、三嶋はさっさと日の下、通りの真ん中へと躍り出る。アキラも仕方なしに、長く連れ添っている友人の横へと並び、


「俺ぁもっとわかんねぇ」


 面倒そうに、促されるまま配給場所の見学へと赴いた。



――北地区ノウスシティ第一区画。一一時二八分現在――



 そこは寂れ、床が軋み、蒸し暑く、薄暗い今にも切れそうなオレンジ色の白熱電球が光源となる店の中。


 壁には大型の対戦車ライフルが飾ってある妙な火器取り扱い店であった。


 エリック・ジェーンは暑そうに胸をはだけさせ、渡されたうちわで風をそよがせる。中年の店主はソレをじっと、いぶかしそうな瞳で眺めていた。


 情報屋――――そこがそうであると知らされずとも、なんと無くソレを察して、だが彼女はわざと気づかぬ振りをする。


「――――で、その店の背後関係を……、……おいっ」


 ふわふわした空気を纏い、話など耳から入れて流すどころか耳に栓でも詰めたように話を聞かぬ男に、ナツメは苛立った様にカウンターを叩いた。


 強く高い音は狭い店内に響く。その目の前で起こった大きな音に店主は驚き、飛び退いてから、


「なんだ、居たのか」


「アンタが見ている代物は俺の連れだ。何を見ている」


 ナツメは呆れたように首を振ると、店主は冗談だと軽く笑んだ。


 そしてまた、カウンターに軽く腕を乗せながら、視線をエリックへと流す。ナツメまた息を吐き――――男の顔を力尽くで正面に向けてから、話を始めからしなおした。


「五区で爆発があったろう。そこの店がクスリを取り扱っていた。違法のな。アンタならその裏が取れると思ってわざわざ来て見たんだが……どうだ?」


「どうだって言われてもなぁ。時間をくれとしか返せない現状で俺はなんと答えればナツメ様に合格をもらえるんでしょうな」


 そうにわざとらしくおどける男は――――「そもそも」と、彼はそう付け足すと、先ほどのような緩んだ表情を引き締めてナツメを睨んだ。


「ソイツを調べるのはお前の仕事じゃあないのか。善良な都民をわざわざ危険へと赴かせるのか?」


「桶は桶屋だ。そして――――アンタは危険を承知でこの仕事をしている。違ったか?」


 そんな男に応じて、ナツメも真剣な眼差しで答えを返す。不敵に笑うと、彼はやれやれだと、肩をすくめた。


「色々あったようだが、変わらんな」


「この程度で変われたら苦労なんかしやしない」


 軽口をそれぞれ叩きあいながら、ナツメは財布から万札を五枚差し出し、カウンターに備え付けてあるメモ用紙に自身の連絡先を書き記してから、素っ気無く、


「じゃあ、信頼してますよ」


 背を向けて、彼はさっさと店を後にする。エリックは店主に軽く会釈をしてからナツメの後を追い――――男はそれを見送ってから、軽く首を振った。


「――――ちょっと強気すぎたのではないかしら」


 店を出ると途端にエリックは不安げに言葉を漏らした。日差しの下ではしっかりと胸元を閉め、だがうちわで扇ぎっぱなしの彼女は、彼等の関係性をイマイチ理解できていない。


 だからナツメは、別にソレを教えてやるわけでもなくただ頷いた。


「長い付き合い、ですから」


 そんな風に、深くも無い言葉をわざとらしく意味有り気に言ってみるのだが、


「――――あ」


 その直後に彼女はそんな呆けたように声を上げて、そういえば、と言葉を紡ぐ。


わたくしの記憶が正しければ貴方は今現在、年齢の程は一九の筈ですが」


「え、えぇ。随分と詳しいですね」


 妙な、先ほど話していた内容とは全く別の会話へと話は移行する。どう考えても全く関連性の無い話だが、彼女に何か考えや気づいたことがあるのか――――そう考えては見たが、どうせただ思い出しただけだろう。


 ナツメは驚いたように、またうろたえて頷くと、


わたくしは一七ですわ。つまり貴方より二つ歳下。貴方が私に対して敬語をお使いになるのは間違いで――――つまり、こう、もっと砕けた風にお喋りくださいまし」


 つまりタメ口で喋ってくれと彼女は言うのだが――――ナツメは、参ったなと頭を掻いた。 


 確かに年齢ではナツメが上ではあるが、年季キャリアや実力、周囲の評価、人望、その全ては彼女にある。


 彼女、エリック・ジェーンはいわゆる年下の上司という訳であり――――無論、そんな頼みは受け入れられない。


 だが、それこそが彼女の命令ならば……。そう考える矢先に、エリックは言葉を付け足した。 


「お友達として」


 ――――つまりはプライベートなご関係。


 自身の゛運゛が強いお陰で今まで生きて来られた――――等と、言う暇もなくナツメは彼女に激しく興味を持たれてしまったという訳である。


 だがまぁ――――委員会に所属するようになって二年余り、その友好関係は開発地区か開拓村、それと先程の情報屋程度しかない。だからこの際、人脈を広げてみるかと、ナツメはなんとなく思った。否、思えた。


 何故かは分からない。彼女が彼女であるからかもしれないし、ただ単純に、無意識下で彼女に惚れているからかもしれないし、また彼女の美貌に酔っていると言う可能性も無きにしも非ず。


「えぇ、戦友ともだちとして」


 だから――――いつかは背中を、命を預けられる仲間になれることを祈って、ナツメは動機はどうであれそんな関係になろうと、手を差し伸べた。


 彼女はそれが嬉しかったのか、その整った顔を崩すほどの――それでも美形には変わりないが――笑顔で、その手を両手で握り締めて、首を振った。


「敬語は無し、ですわ」


「あ、あぁ……。わかった、これからよろしく」


「えぇ、こちらこそ」


 そうした直後、ポケットに詰め込んだ高性能多機能最新型無線機けいたいでんわは電子音を鳴らして――――慌てて其処から抜いて操作すると、空中に展開される粒子の画面に電話の主の名前が映った。


 その連絡でんわは課長からであった。



――南地区サウスシティ第三区画。一一時三三分現在――



 手にする支給袋を抱きかかえながら喜ぶ民たちは、平和そうであった。


 ソレを見て出るのはそんな陳腐でつまらなく、予想が外れた虚しさに徒労であったことを痛感させられる感想である。


 その区画の公園部分で展開されているそこで、彼等はベンチに座りながらうな垂れていた。


 だが三嶋は――――アキラはてっきり、委員会の連中を見たら直ぐに手を出すかと思っていた。彼は委員会に何か怨みでもあったのかと考えていたのだが、理性的に見守る姿を見るに、どうやらそうでもないらしい。


 笑顔で、額に汗を浮かばせながら底を突き掛ける支給袋の配布を手伝っている委員を見ながら、三嶋はそうにアキラへと疑問を投げかけた。


「別に、奴は別にどうでもいい。俺はただムカつく野郎をボコってるだけだからな」


 それが仕事にもなっているのだから気が楽である。やはり能力ちからがある者は言う事が違うな――――そう思うが、彼の場合、能力があろうとも無かろうとも、やることは同じだろう。


 長年付き合ってきて、彼という男がどんな人間か分かっている三島はそう言ってまた、トラックが鎮座する配給場所へと視線を向けると、そこは丁度配給が終えた所であった。


「ま、平穏が一番っちゃ一番だな。これからどうする?」


「どうって言われても――――」


 そもそも予定を立てることも提案を出すことも、彼には向いていない。行き当たりばったりが信条というか、生き方そのものである彼はそんな質問に困っていると――――こちらに気づいた委員が、一度トラックの中を見てから、困ったような顔をしてアキラ達へと歩み寄ってきた。


 三嶋はそれに、警戒しながら腰の拳銃に手を伸ばし、アキラは面倒そうに立ち上がると、すぐ前まで来た男は「すまない」と突然謝ってきて、


「もう支給品が底を突いてしまったんだ」


「あぁ――――なるほどね。ま、気にすんなって、俺たちは支給品は要らない人間だから」


 丁寧な男の対応に、三嶋はすぐさま拳銃から手を離して、気楽に話す。気にするなと、存外に気の良い男に、マシな委員も居るものだと彼は物珍しく笑顔で接していた。


 三嶋が呑気にそうする間――――アキラは不意に、視界に入れる。


 地面に倒れる、中身が散乱した支給袋を抱いたままの貧民たちを。


 寝ている――――などとは、この突き刺すような日差しの下では考えられない。明らかに、病か、疲労か。そんなものなのだが……、そんな事が複数人同時に、起こりうるものだろうか。


 起こるだろう。そう思ったのだが――――気がつくとアキラはベンチから飛び出して、一番近くの、まだ若い青年らしき男を抱き起こしていた。


「おい、大丈夫か?」


 呼吸はある、が――――身体機能が異常であった。

 

 筋肉は小刻みに痙攣し、体温は急激に下がって死体さながら。顔は青ざめ、生きているのが逆に不思議な症状。アキラは自分にはどうにも出来ないと即座に判断して、すぐに――――”優しいおじさん”を呼ぼうと立ち上がると、


「あぁ、安心して。ソイツらは、大丈夫だから」


「あぁ?」


 ――――抱き上げた青年は、脇から配給役員によって掠め取られ、彼はそうして重そうに青年を背負う。だが慣れた風と、そう見て取れる足取りで素早く、青年はトラックへと乗せられていった。


 そして気がつくと、屈むアキラの背後には先ほどの委員が立っていて、


「病院へ、連れて行って」


 優しいだろうと強調するように言う間に、アキラは立ち上がり、その腕を大きく後ろへと引くと――――その拳を反発させて、腕だけを一気に加速する。


「あげ――――」


 一瞬の間も言葉の続きを口にする事も赦されない男は、その直後にアキラの拳を顔面に突き刺されて、またアキラはその打撃が十分に顔面を陥没させた事を確認して――――男を力いっぱい、能力と併用して力の向く方向へと吹き飛ばした。


 鈍い衝撃が手に伝わる。凄まじい衝撃波が、拳が着弾すると共に波状に広がった。


 強く握り締めた拳が伸びきる頃には、プロペラのように回転して飛んだ男は籠ったような音を立てて地面へと叩きつけられる。


 砂煙が舞った。それを遠めに眺める役員の男たちが硬直かたまる。三嶋は何事かと一瞬思考を停止して――――アキラは大きく息を吸った。


「おい、何やってんだよアキラ!」


「ムカついたから殴った。悪ィか」


「悪いに決まってんだろっ! なんでわざわざ――――」


 問題事を。そう愚痴垂れる暇も無く、役員たちは物騒な飛道具てっぽうを構えると、三嶋がそれを認識すると同時に彼等は引き金を引いた。


 乾いた音を響かせる発砲音は、真っ直ぐ弾丸をアキラへと迫らせるが――――銃弾は、その目的を果たせずに、見えぬ力にふわりと、一瞬全ての力を吸い取られるように空中で停止した。そうしてその直後に弾丸は、向かってきた速度を上回る速さで同じ軌道を帰って行く。


「がぁっ!?」


 弾は――――発砲したそれぞれの胸へと被弾することで、本来の目的を果たすことが出来た。


 男たちはうめきながら胸を押さえ、弱々しく拳銃を手から落として、情けなく――――先ほど運んだ貧民よろしく地面にへばりついて行く。


 それを興味なさげに見てから、アキラは視線を落とした。


「多分、能力に対しての反応が強い奴だけに発病するクスリが入ってたんだろうよ」


 青年が撒き散らした食べかけのパンを拾い上げて、アキラは歯を食いしばる。嘘だろと、三嶋は疑うが――――先ほど男が口にした『病院に連れて行く』という言葉が、ソレを確信へと変えようとする。


「まさか病院って……」


第五隔離病棟けんきゅうじょ。犯罪者と研究実験体サンプルが収容される所だな、多分――――治安を維持する? ふざけやがって。こいつ等が一番治安を乱してるくせによぉっ!」


 外側へと反発する力を、逆方向へ――――内側へと向けると、圧倒する握力が水分の無いパンを握りつぶさせた。


 パンは四散し、三嶋は勿体無ぇなと踏み潰しながら、


「これからどうする?」


 三嶋はまた、平穏だと陳腐に眺めていたはずの、平和”だった”公園を眺めて、同じ問いをした。


「決まってんだろ」


 だが答えまでは同じになるとは限らない。先ほどまでとは、数分前とは心境も状況も全く異なる彼は、吐き捨てるように、憎悪を湧きたてるように、口を開いた。


「本部に殴り込む」


 昨日の今日。一昨日の今日。最近は何かと――――委員会が原因で頭に血が上る。


 アキラは苛つきながら拳を握り締めて、トラックへと向かう三嶋の後を追っていった。

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