いつか世界を愛せるように やがて悪役令嬢になる者の祈り
その少女は、祈っていた。
いつか世界を愛せるように、と。
少女の身の回りの環境は過酷だった。
とある名家に迎え入れられた少女は、その家の利益になるように行動し、結果を出さなければならない。
彼女が出す結果は、0であってはいけない。
50や80、99であってもいけない。
必ず100の結果を出さなければいけない。
それが、彼女に期待された唯一のものだった。
だから少女は頑張った。
血のにじむような努力を重ねて。
その努力が報われる時が来ると、そう信じながら。
人を憎んでも意味はないと。
未来を信じて、幸せを求める事こそが尊いのだと。
いつか世界を愛せるように、と。
長い間、一人きりでずっと。
しかし、そんな時はこない。
未来、少女は悪役令嬢となって、断罪され、命を落としてしまうからだ。
そんな少女を哀れんだ神様が、少女の魂に手を差し伸べたけれども、少女はこばんだ。
その時の少女は、もう誰も信用できなくなっていたからだ。
だから神様は、他の世界に手を伸ばした。
いつか悪役令嬢になってしまう少女を、過去にさかのぼって助けてほしいと。
その傷ついた魂を、過去には純粋で優しかった魂を、どうか救済してほしいと。
やがて、その願いにこたえた転生者が、その世界にやってくる。
「いつか世界を愛せるように」
そう願ってやまない、一人の少女の元へ。
「彼女が世界を愛せるように」
やがて悪役令嬢になり、断罪される運命にあった、悲劇の少女の元へ。