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33話 自覚




 一晩経っても、彼女に対しての想いが何であるかはっきりしなかった。

 いや、はっきりとさせたくないのが本音だろう。

 冷たいシャワーを浴びて、一晩眠れば昨夜のような感情はどこかにいくかと思ったが、そんなことはなかった。


(……どうしてしまったんだ)


 自分らしくない。

 アメリアとの結婚は、利害の一致による政略結婚だ。

 昨晩、彼女の唯一の家族になると言ったことに後悔はないし、嘘にするつもりもない。彼女がいいと言ってくれるのであれば、俺が唯一の家族となり、一生涯を共にするという覚悟はある。

 だが、彼女の本音はどうだろうか。

 家族との縁を切りたかったのは本当だろう。昨晩の態度を見てもそこに間違いないと思う。だが、その代わりに彼女の逃げ場が完全になくなってしまった。実家よりもマシだからとか、公爵家と離婚をする方が厄介だからとか、そんな理由で俺を選んだのだとしたら……と考えるだけで、心の底から言い表すことのできないような感情が出てこようとする。

 彼女が望んで俺を選んだのだという、確証が欲しくなる。

 いつから、彼女に対してこういう気持ちを抱くようになったのだろうか。


(こんなことを考えている場合ではないというのに)


 近頃、アメリアのことを嗅ぎ回っている貴族令嬢がいると聞いた。アメリア本人も自分の職業がバレないように警戒をしているだろうが、きっと怖い思いをしているだろう。

 おそらく、その貴族令嬢というのはリーゼ・ベネット。ベネット伯爵家の令嬢で、アメリアと年齢も近い。

 俺が結婚相手を探している時にも近づいてきた記憶はある。家柄は申し分なかったが、その時は経営に携わっておらず、自分との関わりや結婚におけるメリットを最初は見出せなかったのを覚えている。

 ベネット家は主に領地を管理し、領地に住む領民からの税金や作物で暮らしを補っていると聞いた。それだけでは裕福な暮らしができないからと投資もしていると聞いたが、そちらは中々に上手くいっているらしい。

 そして、新たに経営に手を出したいという噂があったので、結婚をきっかけに始めようとでも考えていたのだろう。投資でうまく行っているのであれば経営を始めてもそこまでの問題はないだろうから、結婚相手にしても悪くない条件ではある。

 相手が本気で取り組みたいというのなら、結婚の条件として手助けする気はあった。どうして、断ったのだろうか……。

 

(ああ、そうだ)


 思い出した。

 やけに、干渉をしてきそうだと思ったんだ。

 リーゼ嬢の態度は、あまりにもひどかった。初対面での挨拶だというのに、爵位が俺よりも低いのにも関わらず、俺に近づき、腕を絡めて胸を押し付けられた。あからさまな色仕掛けに靡くわけもなく、むしろ嫌悪感だけが残った。

 そもそも、マナーとして爵位が相手よりも低い場合は挨拶の許可が必要である。結婚の話が前提だからか、そういうマナーも関係ないと考えたのだろうか。


『公爵様。私でしたら貴方様のことを満足させてあげられますわ……もちろん、夜の方でも。どうか、前向きにご検討ください』

 

 即座に無理だと判断したことを思い出した。

 今思い出しても、寒気がする。娼婦がやるよりもひどい色仕掛けに引っかかると思われていたのも癪だが、もしも万が一結婚でもしたら、いつまでも付き纏ってきそうですぐに結婚の申し出を断った。

 そもそも、未婚の令嬢があのような態度を取ることがおぞましい。

 性欲がないわけではないが、あんな女と夜を過ごすくらいならお金を支払って仕事としてコトを済ませてくれる娼婦の方がまだ良い。

 

(アメリアのためにも、早く動いた方がいいのか……)


 まずはリーゼ嬢のことを調べた方が良いだろう。アメリアにかかる精神的な負担を少しでも減らし、安心して暮らしてほしい。

 レオンを呼び出し、密偵に依頼をするように命じた。


「金ならいくらかかってもいい。腕の良い密偵に頼んでくれ」

「かしこまりました、旦那様」


 レオンは綺麗な礼を見せた後、すぐに執務室から出ていった。きっと、解決の方向に進むだろう。

 考えても仕方がないというのに、頭にはアメリアのことが浮かぶ。


「この感情は、恋愛と呼んでもいいのか……?」


 わからない。

 人を好きになるという感覚がこれで正しいのか、この感情をこの政略結婚という結婚生活に持ってきていいのかもわからない。

 そもそも、最初に干渉をしてこないのを条件にしたのは他の誰でもない自分だ。そんな自分がアメリアと関わるようになったのは最近のことだが、それを彼女はどう思っているのだろうか。

 いや、すでに最初の条件など意味がないほど関わっているような……。


(彼女に、確かめてみてもいいのだろうか)


 だが、これで拒否をされても怖い。

 彼女の立場からすれば、逃げ場のない場所でさらに追い詰めることになるかもしれない。こんな契約結婚で、恋愛という気持ちを向けられたら、恐怖を抱いてしまう可能性だってある。

 それなのに、彼女が俺のことをどう思っているのか知りたくなってしまうのは、どうすればいいのだろうか。


(自分がこんなに欲深いとは思わなかった)


 彼女にも、俺と同じ気持ちを抱いてほしいと願ってしまう。

 話をするのも、笑顔を向けてくれるのも、全てが俺だけであってほしいと。そんなことばかり考えてしまう。

 

「……とにかく、今は聞かない方がいいだろう」

 

 血の繋がった家族と縁を切ったばかりの彼女に、今はこれ以上の負担をかけたくない。

 家族に対して思うところがあったとしても、縁を切ったことによるダメージが全くないわけではないだろう。今、彼女のためと思うなら適度な距離を保ち、楽しく快適に小説が書ける環境を作ることだ。

 そのためにも、早くリーゼ嬢の情報が欲しい。

 密偵に依頼を出したとしても、リーゼ嬢の動き方によっては長い調査期間が必要になる。アメリアが動けば彼女も動くだろうが、アメリアに無理をしてほしいわけでもない。ここは、気を長くして待っていた方がいいだろう。


(早く解決するといいんだが)


 アメリアのためにも、早く解決してあげたい。

 見返りを求めず、彼女の笑顔を守るために自主的に動くこと。そこにすでに愛がある、と言われるのであれば、それは認めなければならないだろう。

 俺は、アメリアに対して特別な感情を抱いている。

 間違いのない感情に、これ以上の抵抗をやめた。

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