表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

悪魔は愛を認める

「君は誰かを愛したことはあるか」

 悪魔はとうとつに言った。

 私は薬指にはめられた指輪を見せたが、悪魔はそれには見向きもせず、私の答えを聞きたがった。


「そういえば昔、憧れていた女性がいたものだ」

「それはいい!

 愛する者がいたという経験は、君が小さな人間として存在するということの証明だ。──いやいや、ばかにしたのではない。むしろ愛する者のいない人間というのは、自分自身を受け入れ、愛することができない人間なのだ」


 ちなみに私はこう見えて、神のことも愛しているのだ。私は臆面もなく悪魔にそう言った。


「もちろんそうだろうとも。神を愛さない者が悪魔の存在を認められるだろうか?」

 そう言うと悪魔は上出来のジョークを披露したかのように、誇らしげな様子を見せる。

「何を隠そう、おれも神を愛しているのだから」

 悪魔はまるで、いままで秘密にしてきた、好きな偶像アイドルの名前を口にするみたいに恥じらいのしぐさをする。


「もちろん神が我々にしたことは赦せるものではない。しかしそれでもなお、おれの魂は神への愛で燃えさかるのだ。

 そしてそれは君も同じだろう。ただそれが、どこどこの宗教の神、という具体的(単純)なものでないだけで」

 謎めいた告白だが、その言わんとするところは私にも理解できた。


 神への信仰心とは、自身の内部からわき上がるものであり、どこかにあるものを受け入れるものではないのだ。



「おお、神よ! おれはいまでもあなたへの愛で焼かれ、苦しみ、さまよっています。どうかこの憐れな信奉者にご慈悲を!」


 悪魔は大仰おおぎょうに空に向かって叫んだ。

 もちろん周囲の人間にも、神にも、誰にもその声は届かないのである。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ