悪魔は肉体には宿らないと訴える
差別的な言い回しをあえて。
それもこれも見方を変えれば……(悪魔にとってはこう見える)
「あの太った輩はいったい何かね?」
私と悪魔は、ある大通りに面した歩道を歩いていた。
悪魔は曲がり角をのろのろと歩いて行った肥満体型の男を指して言う。
メタボリックな人間というのは肉体的な贅肉と、精神的な脂肪からできているのだ、私はそう返答した。
すると彼は愉快そうに笑った。
「いかにも! 砂糖という物が作られるようになってからというもの、あのぶくぶくと醜く太った連中が数を増やし、さらには無駄に重量を増やすものだから、地球はその重みでつぶされてしまうぞ!」
そう言うと悪魔は思いついたように手を打つ。
「そういえば君。この前のあれ……そう、ポリティカルコレクトネスとかいうやつだ。あれは──ふとっちょにも適応されるのかね」
もちろんそうだろう。私がそう答えると、悪魔は憤慨した様子でこちらをぎろりとにらむ。
「君は不思議に思わないのか。やれ流行の礼装だ身だしなみだと、さんざん人を外見で判断する連中が、痩せぎすだの肥っているだので差別するな、などと言い出すのか?
太っているほうも太っているほうで、体質だから痩せられない、とかほざきやがる。
そんなことは、一日一食もまともに食事が取れないような、そんな境遇に生まれなかった者のたわごとだ」
奴らは脂肪の重さだけ頭の鈍さも増しているのだ。悪魔はそう言って、肉体についた脂肪は、やがて心にも脂肪をつけて、人の魂はどんどん鈍く、重くなるのだと訴えた。
「奴らはまるで理解していない。贅肉が守ってくれるのは、寒さからだけだということを。
実のところ悪魔というやつは人の心に巣くうものなので、肥満は我々のごちそうだということになるな。あの脂ぎった脂肪にではなく、脂肪を抱え込んだ連中というのは、いつだって暗い情念につきまとわれているものだからな」
まあおれは脂肪よりも筋肉よりも、豊かな感性や思慮深さというものを愛しているのだが。
悪魔はそうつぶやき、大通りを軽快な歩調で進んで行った。