悪魔は個性の必要を語る
「低俗な者はつまらぬ物を尊び、価値あるものには見向きもしない。──いや、それどころか嫌悪すらするのだ」
悪魔はあきれたように言い、ため息をついた。
「見たまえ! あの連中の欲する物の退屈なこと! どれもこれも画一的で、まったく品性だの、良識だのの──完全無欠の欠陥商品ばかりではないか」
悪魔は憤慨し、私に指を突きつけた。
「君はあれをどう思っているのだ? あのような模造品の固まりが君の周囲を取り囲み、いずれは自由も価値も見失って、監獄の中にいるかのように、まるで一色の闇に囚われて嘆息するのだ」
悪魔の言うことは抽象的で、まったく何をと問いただしたくなるが、私は彼の言いたいことについて熟考し、これはと思う答えを頭の中に描きつつ。
その個人によって価値ある物は違うのが、本来あるべき個性のありようではないだろうか、と答えた。
「うむ、君はわかっているようだ」
悪魔は私の返答に満足した様子で、彼の怒りはいくぶん和らいだらしい。
「自由というやつも、価値というやつも。他人の顔色をうかがいながら手にするものではないのだ。
人間が一人一人自由を欲しながらも、自ら不本意な協調主義を妥協しながら受け入れ、自己同一性とやらを曖昧な社会性の中に投げ入れてしまっている。実に嘆かわしい連中だ!」
自由がなければ悪魔の活躍する場面がないとでも言うみたいに、彼は拳を振り上げてうなっている。
どうにもこの悪魔は、規律の大切さを信奉しながらも、そこから生まれる不自由にはげんなりしているといった感じで、人間と同様にその矛盾したありようを嘆いているらしい。
「自由は、その規律と共にあるものなのだ」
悪魔は、規律がなければそれを破る楽しみもない、と訴えているようだ。
つまるところ彼らにとって無秩序な世界という物は、彼らの理想であると同時に──退屈な、つまらない世界になってしまうらしい。