悪魔はネット上の言動が大好き
「すばらしい」
悪魔は胡散臭い係長が着るようなスーツを着込んでいた。
彼のお気に入りであるスーツ姿は、いつだって信憑性がゼロなのだ。悪意ある者は自分の姿を偽るものだからだ。
「スーツを着ていれば真人間になるとでも?」悪意はいつもそうやって人間を小馬鹿にする。
「すばらしいと思わないか? あのネット上でわめき散らす者どもを」
くっくっくっ、と悪魔はほくそ笑む。
「現実の自分がどれほど小さいのか、それをまざまざと示していることにも気づかずに。──ああ、なんて大言壮語を吐き散らすのだ! これ以上おれを笑わせて、笑い死にでもさせたいのか」
不意に吹きだし、彼は私に唾を飛ばしてきた。
「ああ、すまない。
だが神に誓って言うが、それは神聖な唾なのだ! 決してふき取ってはいけない!」
私は頬についたその汚れを白いハンカチーフでそっと拭う。
「まったく! おまえという奴はいつだって人の言うことを聞かないのだからな!」
悪魔の怒りは、その発生と同じように──あっと言う間に消え去った。
「それにしてもだ」
悪魔はネット上でいきり立つ人間が大好きだ。
あの醜い感情を吐露している人間をからかうのも好きだし、ただ傍観しているだけでも最高の娯楽だと語る。
「まったく滑稽なコメディアンだよ!」
プ──ッ、と軽快な音を立てて吹きだす悪魔。
まるでラッパみたいな音が響いた。
「あいつらは現実の自分がどんなに小さいものか知っている。その小さな自分から目を背けるため、いつだってネット上では、自分が獅子か虎にでもなったみたいに振る舞いやがる!
臆病な犬っころだって、あそこまで恥知らずでいられるものか!」
そう言って悪魔はゲラゲラと、さも愉快そうに笑い、「弱い犬ほどよく吠えるとは言うがな!」と高笑いした。
ネット弁慶などと呼ばれているな、私はそう告げた。
「弁慶? ああ、あの──どこぞの橋の上で喧嘩をふっかけていたという狼藉者のことか。なるほど! あのネット上で誰かれかまわずに攻撃的な言葉をかける奴らを指し示す名称か! それはいい!」
悪魔はまた愉快そうに笑い声を響かせる。
「奴らはネット上で弁慶どころか、自分を神にでもなったかのように完全で、一部の弱みもないかのように言ってみせるがな!」
ネット弁慶ってまだ使ってるのかなぁ。