表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

悪魔は自己知解のない輩を憐れむ

自分を理解する、というのは本当はおそろしく難しい事柄で、自分を完全に掌握するのはさらに不可能。──病気すらもしなくなるような、そんな人がどれほどいるか。

精神の問題ではさらにそれが難しく、かつ曖昧で認識しにくい。

「多くの従順な愚か者という者がいる」

 悪魔は漆黒のスーツを着ていた。

 彼の感情はまるで静かな夜の海のように凪いでいて、それでいて途方もなく深いよどみを隠し持っているようだ。


「それはいつもいつも、毎度毎度……」

 と、悪魔は繰り返すのだった。

「……飽きもせず、同じ過程と結果を繰り返すのだ。言うなれば、もうこんなのはこりごりだと言いながら、毎日毎日、繰り返しの繰り返しを行っているようなものなのだ」



 悪魔はどうやら、()()()()()()()()()()()()を皮肉りたい気分であるらしい。



「広告だのインフルエンサーだの偶像アイドルだの、流行はやりものだなんだのと。毎回毎回、飽きもせず……」

 ぶつぶつと悪魔は口にする。

「奴らは自分の頭でものを考えられず、思想や趣味趣向すらも他人任せなのか。まるで操り人形のごとく!」

 自らを外部情報の渦の中に投げ入れ、そこで自らの存在を曖昧にした者は、無意識の虜となり、フロイトの唱えたような超自我とは疎遠になるのだろう。

 そうした連中は無意識の同調性に組する亡霊として、他者の人生を生きるようになる。悪魔にとっては御しやすい連中となるだろう。



「それは悪魔を軽んじている!」

 憤慨した様子で彼は言った。

「いかにも低級の、低俗な悪魔ならやりそうな手口だが。愚かな輩を操ったところでなんの自慢にもなりゃしない。

 ()()()()()()()()()()から宝が見つかるはずがないだろう!」


 彼の言わんとするところは、たやすく手に入るものには大した価値が無い、といったことに通ずるものだろう。──悪魔が何を目的として人間に近づいて来るかは、その個体によって違うだろうが──


 弱い意思には弱い力しか宿らないし、自己の本質を理解しない憐れな個人というものは、いつも自らの本性と対立し、苦悩の中で自らの魂をすり減らしていくものだ。

 そうした内的な衝動が外部の人間に投影され、そのような輩は無意味な攻撃性で他人と対立したがるのである。



「だがまあ、わからんでもないなぁ。自分の頭で考えるというのは難しい作業だからな。

 だから操り人形のごとく、奴らはいつまでたっても半人前の出来損ないなのだ。

 愚か者には苦痛と苦悩を!

 それが魂を研磨し、汚れきった魂のさびを落とすのだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ