悪魔は賭けごとを勧める
賭けごとにのめり込む人の特徴について。
悪魔の意見に従うか、それとも反目するか。
それはあなた次第。
「なあ君。君はついぞ賭けごとをしないな」
とうとつに悪魔は言う。
私は返事をせず、つぎの言葉を待った。
「人はもっと賭けごとに真剣になるべきだ。
お金なんてそのうちどこからか入ってくるものさ。なんといってもただの数字じゃないか。
銀行預金の残高よりも、おまえの幸福度を気にすべきであって、紙幣にしろ電子マネーにしろ、そんなまやかし物を手放したってなんの問題もないさ」
金銭にしろ物質にしろ、失えば困るし、増えればよろこぶ。
賭けごとはその感覚が一瞬で、大きく味わえるからいいのではないか。私は答えた。
「なるほど、認識としては間違ってはいない。
だが、そのようなお利口さんな答えなど意味がない! 実際的な危険と生還。そこにこそ人生の祝福があるのだ!」
彼はいまにもハレルヤを口ずさみそうなほどに高揚している。
「だいたい金なんていつその価値を失うかわかったものではない。
それはいつか、気に入らない相手から受け取ってしまった恋文のように、気の重い物になるだろう!」
私は肩をすくめ、そんなに気が重い物ならやぶり棄ててしまえと言った。
「事実、多くの人間は金に縛られ、金の重さに押しつぶされているのだ! あまつさえ神の恩恵よりも、金が降ってくるほうがありがたいなどと言うくらいにな! なんという不信心。そして盲目さか! 自分の信奉するものが神であったか、紙幣(紙)であったかすらわからなくなっているくらいに!」
悪魔はまくし立て、こうも口にするのだ。
「……だが、金はいい物だ。
すべてと言うほどではないが、多くの物がそれで手に入れられるのだからな。──信仰心すらも!」