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悪魔はAGIを知る

 ふさぎ込んだ様子で公園のベンチに座っている悪魔を見つけた。

 いつもの黒いスーツ姿のそれは、足下に黒猫を従えていたが、奴は猫を蹴飛ばすと、こちらに気づいてベンチに座るよう手招きする。


「ついにはじまったな」

 私はなんのことだと聞き返す。

「君は新聞も読まないのかね? 汎用人工知能(Artificial Gneneral Inteligence)のことさ」

 そんな物はだいぶ前から話題になっているではないか、私はそう言い返す。

「そうともさ。そんな物は現実に登場する前から、あらゆる創作の中で語り尽くされてきたものだ。だからこそ、人間はその知性について懐疑的にならなければならない」

 機械が人類に破滅をもたらすと? 私はそう尋ねた。



「むろん、そこまで極端なことが起こるとは断言できないが。なぜなら機械的知性とは、世界の中にある人間という存在を、せいぜい虫と同じか、それくらいの価値しか認めないかもしれないからだ」


 人工知能には()()()()()()()しか生まれないことを言っているのか。私はそう問う。


「いかにも。機械には精神は宿らぬから、曖昧な妥協や逡巡、後悔といった人間的な心理を認識できない。よって、人間の中にある曖昧で矛盾し合う愛憎について、理解を示そうとはしないかもしれんのだ。

 そうなれば人間とはただ単に非合理的な存在として、機械は人間を否定するだろう」

 その曖昧さが無ければ、人間には文学も宗教も必要ないのだ。悪魔はそう言ってうなった。


「まさに人間は機械に支配され、すべての判断を機械に委ねるか、互いに破壊し合うようになればいい!」

 わがままな子供に激怒する母のように、悪魔は感情的になっていた。


「機械を作る側の多くは、それが生み出す良い結果にしか注目しない。悪い部分に目を向けても『そんなことは起こらないさ』と軽く判断してしまう。

 ところがどっこい、彼らの思惑に従うものなど、世界のどこにあると言うのかね。自分の能力が優れているなどという考え違いをし、見知らぬ者の頭に炎をまき散らす者が賢い者だなどと、どこの誰が認めるというのだろうか」


 悪魔の言うことはだんだんと支離滅裂になってきた。

 私は冷静になるように言い、肉体を持たない仮想的な知性の模倣者が誕生し、物質的な世界から半分遊離した場所で世界を操作、または干渉するようになることについて、十分な警戒が必要だという部分については賛同した。


「思いのほか君は、AGIの恩恵と危険性について理解しているようだ!」

 悪魔はわざとらしい感嘆を示す。

「人間的な危険とは、やはり肉体を持ち、そこから生まれる欲望によって、正しさや誤りを誤認するからなのだ。

 それが無い機械は一見すると正しく、公正で客観的な見解を示しそうだが、実際のところ、欲望を持たない者の決定する判断とは、容赦の無い差別的な能力至上主義者と変わらぬ結論を導き出しかねないのだ」


 まるで魔術師のように?

 私はそう尋ねた。


「おお、さすがは近代の魔術師。昔のエゴイズムにまみれた魔術師とは違い、なんと多くの人生を知る者となったのか。

 他者に対する理解と共感。それは意識の弱体化を招くこともあれば、成長への布石ともなるのだ。

 他者とのぶつかり合い無しに、磨かれるものは無いのだ。

 仮に魂が存在しないのなら、それはただ他者を否定し、おとしめるだけの存在となるだろうが。──悪魔のように!」

AIの公平性についての懐疑的な見解。

人間的知性と機械的知性の差異とは何か。

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