悪魔は信者を糾弾する
率直に言って、今回の話はわけがわからないでしょう。
それは普通のことです。読解力の問題ではありませんのでご心配なく。
ある種の事柄に関わったり、あるいは外野的な立ち位置にいない限りは理解できない内容です。もしかすると別の件で感じたことをこの悪魔との対話の中に感じる人もいるかもしれません。
なんらかの答えを得るにしても、それは一人一人が考え、答えを導き出し、納得していかなければなりません。
「君は宗教対立が理由で、無惨にも殺された子供のことを知っているだろうか」
そうしたことは一度や二度ではあるまい、私はそう答えた。
「そのとおりだ。自身の神を信仰していながら、他者の信じる神を否定するというのは、まさにその信仰心が、偽りに歪んだ投影にすぎないという証明だろう。
そうした考えのもとに、その子供は殺されたのだ。
自分の信じるものだけが真理だなどと言う、たわけ者が信じる神?
おお! 神よ! あなたはなんと恥ずかしいものなのだろう!
そのような盲目で無知な信者に取り巻かれているあなたがまさか、尊い存在だなんて、誰が信じられるというのか!」
宗教の古さを価値と考え、受け継がれる宗教的思想そのものを価値とする者が多いのも事実だろう。私がそう言うと、悪魔は心底軽蔑したような表情になる。
「ああ、ああ。知っているとも。古くからつづくものを無条件でありがたがる馬鹿どものことだな。
なんという無知蒙昧な輩! 恥ずべき偽善者の中でもとびきり滑稽なろくでなし! 信仰心など持たぬくせに、わかったような顔をする厚顔無恥な輩!
哀れな道化師だって、そいつの前では影のようにかすんでしまう!」
悪魔は毒を吐いても気が済まぬ、とでも言うように、盛大にゲロを吐き出した。
──それは地面に落ちると同時に煙のように消え去った。
何千年もつづくものに価値があるとするのもわからなくはない。
私がそう言うと、やはり悪魔はいら立たしげに歯をむいて笑う。
「ふむ、では聞くが、なぜ何十億年もつづく地球のことは考えないのであろうか? 宗教は地球よりも大切か? ならば地球全体が氷におおわれたり、あるいは灼熱の世界になったとしても、そんなものよりも宗教を大切にして死滅するというのだな? 異教徒らとともに!」
仮にそんな破滅が地球に起こるとしたら、はじめから神は人類のことなど、歯牙にもかけていないだろう。
悪魔の曲解はともかく。信仰心も持たない者がある種の宗教を弁護したり、地上の楽土を妄想するようなことになれば、この世の秩序などというものは幻想から生まれた──非人間的な、偽りの道徳によって塗り固められてしまう。
そうし連中は新興宗教を卑下し、まるで古くからあるものだけが真実のように吹聴するだろう。
彼らに必要なのは自らの弱さに立ち向かう勇気であって、まさに悪魔的な困難に立ち向かう気概を持たなくてはならない。──必要なのは弱者同士の馴れ合いなどではないのである。
「いつだって強者というものは孤独なものだからな」
悪魔は私の心を読み取ったみたいにつぶやいた。
前半部に書かれた内容のことは、法政大学出版局の『りぶらりあ』関係の本で読んだ内容。外国のジャーナリストが書いたものだったと記憶。