悪魔に嘘は通用しない
心理学のお話。
影とは心の中の鬱屈した部分。それは外部の光に照らし出され、まるでそれが外側に(他人の中に)あるように錯覚する(投影される)。
「なんて間抜けなんだ!」
悪魔は突然、声高に言った。
「間抜けな奴というのは、いつだって他人のことを責め立ててわめき散らすものだが、感情的に吐いた言葉というのは相手のことを言っているのではなく、いつだって自分自身の負の側面を投影しているにすぎない!」
それは心理を学んだ自分はよく理解していることだ。私はそう言って、悪魔を落胆させる。
「君はそれを知っている。しかし、知らぬ者が多すぎるのだ」
悪魔は虚偽申告を前にした上官のように息巻いた。
「奴らの間抜けっぷりというのは、自分の本質を一切認識できないというところだ。
だからこそ自分の影を他人の中に見るのだ。
なんというはた迷惑な連中だろうか。
他人にかみつくのは、醜い自我に無知でいつづける限り、永遠につづくだろう!
つまり、奴らの魂はいつまでも地獄の中に囚われているのだ!」
それはあらゆる罪人と同じで、誰かに捕まるまで気づかないし、場合によっては捕まったあとも気づかないのと同じだ。私はそう言った。
「ああ、ああ。そのとおり! 彼らの意外性は、自らの罪悪がこの世のものではないかのように振る舞うところなのだ。
知らぬが仏とよく言ったもので、まさに地獄にいることに気がつかなければ、彼らはまるで天国に存在しているかのように振る舞うわけだ。──ああ、なんて憐れなのだろう!」
自分に嘘をつき、自らを偽るのが人間というものだ。私はそう言い、悪魔の発言を待った。
「そうとも。人間は嘘つきだ。──だがな、自らを偽る者は、決して自己を肯定することはできないのだ。なぜなら隠してきたものによって、自らの息を詰まらせ、窒息するからである」
悪魔のその言葉はニュースで出る、犯罪を犯しておきながら「やってない、知らない」と言いだす連中によく似ている。
自分の動機について理解せず行動する者を、悪魔は一言でこう断じた。
「愚か者を眺めるのは愉しいものだ!」