覚醒を待つ余裕はあるのか
陸鳳。
彼の顔を見る。
獣神と言う。
以前、逢った事がある。
それは、どこなのか、互いに思い出せない。
この閉じ込められた時空の中で、時間は、流れていくが、
歪んだ記憶は、戻らない。
どこかで、逢っている。
山神と言った。
歴史学者の叔父のせいで、あちこちを旅していた。
どこだったか、忘れたが、中学生の時に、
未開発の山に行った事があった。
そこで、神隠しにあったらしい。
覚えていない。
たくさんの狼の群れに囲まれていたらしいが、
現在、狼が生き残っていたと言う話はない。
陸鳳は、その時の山神に似ている。
声をかけようか。
そう思っていた。
が。
創宇と対峙する陸鳳の顔は、険しく、声を翔る気になれない。
それに、あの陽葵って、なんなの。
同じ獣神らしいけど、
惑わせる様な事言っていたんじゃない?
少し、イラついた。
創宇は、自分を古城の主と思い込んでいる。
自分は、
何もできない。
非力な人間でしかないのに。
古代に、陣を敷いた咲夜姫と思い込んでいる。
否定したが、
信じ切った目をする創宇を前に、言い出せなかった
そんな優れた能力もない。
普通の大学生。
もしかしたら、
彼らの探している咲夜姫は、
希空かもしれない。
彼女の行動力なら、
ありえる。
でも
どうして、この古城に、
閉じ込められたの?
「時間がないんです」
創宇は、桂華に向かって言った。
「陣を修復しないと。あなたが、守った街を助ける事はできません」
「何か。起きるのか?」
創宇とこの陣の主との間に何かが、起きた事は、陸鳳も感じていた。
この六芒星の話は、遠く離れた陸鳳の山にも、伝わっていた。
「あなたの守る山は、標高が高いから、生き残る事はできるでしょう。ですが、この街に住む人達は、生き残る事ができない」
陸鳳は、眉を顰めた。
「標高が低いと生き残れないって、事は・・」
「咲夜姫は、この時が来るのを知っていたのです」
「何が、起きると言うんだ?」
「星が降ってくるんです」
「星なら、昔から、たくさん降ってきている」
古城の中の幻想で、狼の群れの上を横切るたくさんの流れ星を見ている。
「そうではなくて・・・・地獄の星。冥王星の小惑星が、この地上に落ちてくるんです」
「地上に?今まで、そんな事は、起きた事はない」
「今までは、そうだったんです。でも、もう、避ける事はできない」
「それと私に、どんな関係があるのです」
「あなたに、陣を直していただきたい」
「私ではないと思う」
「いいえ、あなたなんです」
創宇は、桂華の手を取った。
「咲夜姫なんです・・・」
「だとして・・」
陸鳳が、二人の間に割って入った。
「直すとは、どんな方法で・・・」
「もう一つ、神の時代からの鉾を・・・楔と言う者もおりますが、その鉾を持って着て頂きたい」
「神話の世界の鉾といえば・・・」
「さずが、山神というだけある・・・九州です」
過去に聞いた事がある。
九州最大の山に、それは、あると言う。
「そこは、あの菱王の守る地でもあるのです」
あの菱王。
創宇を陥れようと、陸鳳を、仲間に引き入れようとした獣神。
「どうやって、私が?」
桂華は、自分ができるとは、思っていなかった。
なんとか、希空と合流しないと。
陸峰尾が、心配そうな目で、自分を見ている事に気がついた。