幾千の星と時間と。
「まいったな・・・全く、歯が立たない」
リファルは、ため息をついた。
この世界では、全く、魔術が効かない。
「リファル様。ここは、別の世界に来たと考えておりましたが、もしかしたら、違うかもしれません」
エルタカーゼは、気付いた事があった。
「どうしてだ?古城の回廊から、放り込まれたと思ったぞ」
「魔術が使えないのは、別の世界に来たからではないと思います」
「何を根拠に・・」
エルタカーゼの視線の先を追いかけた。
もう、陽が落ち、辺りは、闇に包まれていた。
焚き火を守る希空の上にも、満天の星空が広がる。
「星・・・です」
「星?」
リファルは、ハッとして、空を見上げた。
「同じ星は、ないはずなのに、幾つも、同じ星があるのです。しかも、円状に・・・まるで、万華鏡の中に入ったかのように」
「待て・・」
リファルは、エルタカーゼの話を突然、遮った。
「どうしました?」
リファルは、焚き火の前の希空の前に、立ちはだかる。
「君は、一体、誰なの?」
「私?」
希空の瞳の中で、焚き火が弾けた。
漆黒の瞳。
「君を見ていて、関心していたんだ。こんな所で、とても、行動的だとね。だけど、ちょっとおかしくないか?」
焚き火の揺れている筈の希空の影がない。
「まさか、君までもが、虚像だと思わなかったよ」
「リファル様・・」
エルタカーゼが、剣を差し出すと迷わず、リファルは、希空の頭上を真一文字に切った。
まるで、そこに布製の天蓋があるかのように。
「え?」
エルタカーゼすら、驚きの声をあげる。
空間を切り裂いた剣は、また、別の空間を現れると、小さく萎んで、地面に吸い込まれていった。
そこに居た筈の、希空の姿も、地面に吸い込まれて、新しい空間が、2人を包み込んでいた。
「どうしたのです?」
そこは、異空間等ではなく、古城の奥、
巨大な墓石のある、薄暗い地下になっていた。
「まやかしだ・・・よく使う術だ」
リファルは、言った。
「思い込まされていた・・・な」
その場には、希空の姿はなく、
エルタカーゼとリファルの2人だけだった。
「何が、起きていると言うのだ・・」
目の前に現れた石棺は、激しく音を立てながら、揺れていたのだった。




