ヒロインに、なれないのは、誰のせい?
長年の恨みがあった。
陸鳳の事は、何年も前から、見つめていた。
彼が、両親の事で、悩んでいる時も、常に自分が側にいた。
「人間なんて・・・」
父親である山神を、人間の女性に取られた時に、陸鳳が言ったのを覚えている。
「人の血が半分、流れている弟なんて!」
人間との間に、弟を授かった時にも、陸鳳は、荒れた。
プライドの高い山神。
人と、交わるなんて、考えた事もなかった。
いつも、支えたのは、私だった。
「君だけは、わかってくれる」
眩しそうに、自分を見つめて、つぶやく彼の顔を覚えている。
「君だけだよ」
絶対、忘れない。
山が、燃えた時も、
あの親子が、逃げ遅れた時も、
陸鳳は、真っ先に助けようとした。
自分の身を顧みず。
酷い怪我だった。
親子を助けようとして瀕死の怪我を負ったが、誰も、彼の存在に気が付かなかった。
助け出したのは、私だった。
誰も、彼の怪我に気が付かなかったのに。
彼の力を知った途端に、みんな、彼を奪おうとするの?
同じ人間の女に、彼を渡すなんて、できない。
兎の獣神である、陽葵は、速かった。
桂華の後ろを取ると、刃物を首筋に押し当てた。
「陽葵!何をする?」
創宇は、桂華の様子を見て、極端に怯えた。
「ダメだ。傷つけてはならない」
「どうして。たかが、人間。この女は、どうしても、気に入らない」
「陽葵。それ以上、動くなら、私も、捨てて置けない」
「さあぁ、どうするのかしら?陸鳳?あなたを苦しめていたのも、同じ人間でしょう?」
「陽葵。違う。苦しんでいたんじゃないんだ」
「陸鳳?記憶が戻って・・」
陸鳳は、頭を振る。
「どうして・・・ここに落とされたのか、わかったよ。創宇・・・君だな」
こめかみを抑える陸鳳。
「時間を戻したんだ。あの日に」
「あの日?」
陽葵は、わからない。
陸鳳が、何を言っているのか。
「時間が遡る。空から、たくさんの星が降っているように、見えた・・・が、星なんかじゃなかったんだ」
創宇は、頷いた。
「星の中に、紛れて、この地に降り立った者が居た。たくさんの狼の群れが、それを見ていたんだ」
「何の事なの!」
陽葵は、ヒステリックに叫ぶ。
「星は、いつだって、降っている。昔も今も。それが、何だって言うの?」
「六芒星に星が降ったんじゃない。星が六芒星を作ったんだ」
陸鳳は、言った。
「父のそのまた、父。ずっと、大昔にあったと言っていた。天から来た人を迎えたと」
「それと、この女は、どんな関係があるの?」
桂華は、陽葵に押さえつけられ、声を発する事ができないで、いた。
「人間だからって・・・俺と同じ理由で、目が曇っているんだよ。陽葵。」
創宇が、陸鳳を見つめていた。
「いつから、気がついていた?」
「この世界に、落ちた時から・・」
黄金色に輝く草原の表面を風が通り過ぎていった。