眩しい記憶
目の前にいるのが、あの時の少女だと気がつくには、時間がかかった。
恐怖と陸羽への負い目が、陸鳳の記憶に蓋をしていた。
「前に一度会っている?」
陸鳳は、桂華を見た時にそう思ったが、言い出せなかった。
「言ったろう?」
隣で、陸羽が言った。
「地蔵守りの婆様が言ったろう?この厄日に来た女子が、俺の女房になるって」
村に来た桂華を見た時に、陸羽が言った。
「人間の血を持たない兄貴が、俺と同じ血を呼ぶ訳がない。婆さんが言う通り、俺の女房になる」
強気の陸羽の言い分に、陸鳳は、言葉を返さなかった。
「それに・・・兄貴には、あの子がいるし」
戸惑う陸鳳に、陸羽が、言葉を被せる。
そこには、桂華に興味を持った陸鳳を先制する意図があったのかもしれない。
「陽葵がいるし」
「陽葵?あぁ・・・」
兎の獣神である。
「命を助けてもらったんだから、答えないと。兄貴」
そう言われると、何も言えなくなる。
幼い時の記憶で、炎龍には、恐怖があった。
守っている神山の奥地に入り、代々の山神が超える試練がある。
三つの試練があり、それを乗り越えないと、山神として認めてもらえなくなる。
最後の炎の試練で、陸鳳は、命を落としかけた。
身を挺して、陸鳳を救ったのが、陽葵だった。
「あそこまで、守ってもらったら、離せないよね。兄貴」
陸羽は、嬉しそうに声を上げた。
「陽葵は、兎の獣神だし、たくさん、子供を産みそうだね」
「子供は、いらない」
「え?どうして?」
「我々は、もう、滅びゆく種族だから」
「何言ってんだい?」
「我々を、必要とする時代も、あと、少しで終わる」
「そんな事ないよ。杜の都では、獣神を必要としている。我々の力で、都を守っているんだ」
「あぁ・・・戦国時代に、都を守った武将の話か」
「兄貴は、外を知らないから・・・。その武将は、元あった陣を使っただけ。元々作ったのは、別の人なんだ」
あまり、陸鳳は、興味が無さげだった。
割と、陸鳳は、頭が硬い。
「別の人?」
「杜の都に舞い降りし姫。咲夜姫だ」
「ふ・・ん」
「知らないの?」
陸羽は、人間の血が入っているだけあって、世間の話には、耳が早い。
「咲夜姫ね」
「俺・・・人間の女性には、憧れるな」
「ふ・・ん」
陸羽が、桂華を気に入ったのも、それが関係しているかもしれない。
「咲夜姫か・・・」
陸方おは、目の前にいる桂華をぼんやりと見つめていた。