異空間の水晶
希空は、毒気ついた。
「本当に、冥府から来たの?」
興奮するあまり、仁王立ちになっている。
「術が使えるって?何もできないじゃない?」
「苦労する気か」
リファルは、声を張り上げた。
それもその筈。この世界に来たら何もできず、人間の女性の世話にならないと、食事すらままならない。
「お前も見たであろう?リファル様の、腰巾着に入れられた事を」
確かに、桂華の前で、意識を失い、その巾着に綴じ込まれていた気もする。
「そんな筈ないわ。何か、飲ませて、錯覚を呼んだのでしょう」
確かに、二人が日本人とは、違う感じはある。
異国の人というのは、信じるが、冥府の妖だなんて、馬鹿馬鹿しい。
「冥府なんて、ある訳ないし。どうして、この国にまで来た?」
「そもそも・・・」
リファルは、咳払いをした。
「お前達、この国外に出ただろう?」
「桂華と行った研究旅行の事?」
冥婚の慣わしが、まだ、生きている国に旅行に行ったのは、事実だ。
だが、そんなの、迷信だと思ってた。
「紅い封筒に触れただろう?」
「それは、私ではないわ。桂華よ」
「その桂華を迎えに来た。まさか、ここまで、来る事になろうとは・・」
「桂華が、冥婚するとして、相手は、誰なの?あなた?どう見ても、子供じゃない?」
「儂ではない」
無礼な物言いに、エルタカーゼは、手を挙げそうになるのを、リファルが制した。
「私ではない。とうに消えてしまった兄の供養をしようと思ってな」
「兄?供養?」
「リファル様の兄じゃ。毎年、冥婚の相手を、選ぶ事になっているが、それが、今回は、あの娘になったと言う事だ」
「毎年、花嫁を選ぶって、生贄って事でしょう?」
「まぁ・・・その」
リファルは、小さく口籠った。
「お兄様が、戻る為にも、血の儀式は、必要なんです。選ばれたら、逃げられない」
「桂華も、毎回、変な奴らに絡まれるのね」
「毎回?」
リファルとエルタカーゼは、顔を見合わせた。
「中学生の時に、母親の実家に行ったら、山神のトラブルに巻き込まれたって聞いたわ。本人は、覚えてないらしいけど」
「山神のトラブル?あの狼の獣神か」
「山神とか、冥府とか、私には、信じられないけど。六芒星の力で、街を守ろうとする歴史がある鵜くらいだから、そういう類があるのは、珍しくないわ」
希空は、消えそうな焚き火の火に、枯れ木をくべていた。
「科学なんかじゃ、割り切れない事がたくさん起きているのよ」
「信じてくれたか?」
「術も使えないのに?冥府とか・・・ありえない」
「術が使えないのは、この落ちた世界が原因かも」
何かに気づいたように、リファルが指をさした。
「何があったんですか?」
リファルのさす方向に、たくさんの六角水晶の柱が、重なって立っているのが、見えたのだった。
「