獣神達の罠
陸鳳の声がかすかに震えているのを、桂華は、聞き逃さなかった。
山神として、半神の弟を従え、多くの獣神の中に居て、恐る事などあるのだろうか。
自分こそ、ちっぽけな人間なのに、鋭い爪と牙を持つ、神の恐る事とは、どんな事だったのだろう。
「僕は、あの時、気が弱くなっていた。」
陸鳳は、振り返る。
思い出したくもない。
幼い日の事。
それは、初めて、自分に弟がいると知った日の事だった。
誇り高い母を裏切り、父は、人間との間に、子供を儲けていた。
母は、怒り狂い、山々は、炎を吹き上げていた。
「陸鳳。探すではない」
そう言い、母は、山奥に篭った。
残されたのは、幼い弟と人間の女性だった。
父親は、大陸に渡り、これまた、母同様、姿を消していた。
「どうして、母さんまで、姿を消すの」
幼い陸鳳は、母を追いかけたが、失意の母親は、答えてくれる事はなかった。
「山神の長になるのだから、陸鳳は、しっかりおし」
母は、そう言って、彼を一人にした。
残されたのは、人間の女性と幼い陸羽だった。
奇妙な3人での、生活が続いた。
陸羽の母親は、陸鳳も、自分の子供同様、分け隔てなく、可愛がった。
が、獣神の一族は、冷たかった。
何としても、陸鳳の母親を追いやった、親子を追い出したかった。
陸鳳も、同じだった。
陸羽を受け入れる事も出来なかった。
無理難題を獣神の一族は、親子に押し付け、獰猛な一族のいる山の奥に親子を置き去りにする事にした。
うすうす、陸鳳は、気付いていたが、人間への嫌悪感から、親子を危険な山奥に、置き去りにして、しまった。
山神の血を引いているとは、言っても、まだ、陸羽は、幼い。
獣神に襲われたら、ひとたまりも、ないだろうに。
陸鳳は、迷いながらも、2人を置いてきてしまった。
これが、後に、トラウマとなり、危険な中、陽葵を助けに、向かい記憶を失う事になる。
「お兄ちゃん、絶対、戻ってきてね」
山に置いてくるときに、無邪気に陸羽は、声をかけていた。
「暗くなる前に、山を降りなさい」
陸鳳の仕打ちを知りながら、陸羽の母親は、優しかった。
「これで・・・いいんだ」
人間なんて。
嘘つきだ。
父や母が、離れてしまったのも、人間の女のせいだ。
陸鳳は、自分を納得させながら、山を降りる事にした。
「気をつけろなんて・・」
自分は、山神の子なんだから、危険な目になんて、あう訳ないのに。
「あなたは、山神の長になるんだから、そんな弱気で、どうするの」
母は、誇り高く、そして、冷たい。
「気をつけて」
陸鳳に、優しい陸羽の母親。
自分は、個人的な感情で、他人を危険な目に合わせようとしている。
あの親子に、罪は、あるのだろうか。
陸鳳は、後方を振り返った。
「このまま、時間が経てば、あの親子は・・・」
陸鳳は、首を振った。
このまま、親子をそのままには、しておけない。
陸鳳は、親子に向かって、戻って行った。