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遡る時間

脇腹からの血が止まらない。

「大丈夫?」

聴きながら、自分の着ていたカーディガンを脱いで、傷口に当てた。

「一体、どこで、こんな怪我を・・」

飛び込む前に、受けた傷かもしれない。

桂華は、無理に起こすのは、止めて、陸鳳の隣に座る事にした。

「ここには、長く、いない方がいい」

陸鳳は、辺りの空気を嗅ぐ様に言った。

「そう思うの?」

そう言われて、桂華も納得した。

胸騒ぎがする。

この光景。

この空。

忘れてはいけない。

そんな気がする。

「この後・・・ここに、若い狼が来る」

何がこの後、起きるのかを知っている様だ。

「若い狼?」

桂華は、眉を顰めた

夕陽に、銀色の毛並みを輝かせて走る、若い狼。

遠い日の見た記憶がある。

「何処に、いるのか、わかった」

陸鳳は、呟いた。

「ここは・・・」

陸鳳の言葉に、被せる様に、狼の遠吠えが聞こえてきた。

「過去に戻っている・・」

「過去?」

桂華は、ハッとした。

自分も、記憶の中に、この一場面が残っている。

陸鳳が、過去と言った。

「私達、過去で逢っているの?やっぱり?」

誰かを助け出した。

それは、この人狼?

桂華は、思い出そうと、陸鳳の顔を見つめた。

恥じらうように、陸鳳は、顔を逸らした。

「君と、逢っていたのかは、覚えていない。逢っていたとしても、それは、今の君の姿ではない」

「どういう事?」

「君が生まれる、ずっと前の出来事だから」

「一体?いつの話」

「ずっと、昔の話だよ。お嬢さん」

草原を風が撫であげ、いくつかの遠吠えが聞こえてきた。

陸鳳が、そっと桂華の頭を撫で、背丈のある草に隠れるように促した。

「幸いにも、風下だから、大丈夫だろう」

たくさんの足音が、一匹の狼の後ろについてくる。

狼の大群だ。

様々な色に、光り輝く狼が、群れをなし、目の前を横切っていく。

何かに追われるように、血走った目をしている。

「そうだ・・・この後」

陸鳳が、喉を鳴らす音が聞こえた。

「見ない方がいい」

「え?」

狼達の叫び声が、あちこちから、上がった。

草むらから、桂華の頭が飛び出しそうになるのを、陸鳳は、抑えた。

「ダメだ。危ない?」

犬の様な悲鳴が上がり狼の群れが散り散りになっていく。

土埃が上がり、その中から、四つ足の何とも言えない、大きな牙を持つ獣が姿を現した。

「そう・・・あいつが現れたんだ。あの日、僕は」

陸鳳の声は、かすかに震えていた。

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