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そこに僕らは居た。夕焼けと朝焼けの間に

厚い雲が空を覆っていた。

灰色と黒の雲が、覆う中で、隙間からは、茜色が垣間見える。

「ここはどこだ・・」

うっすらと、意識が戻ってくる。

確か、自分は。

そう、記憶がぼんやりと戻ってきた。

幼い少女にあった。

透明感があった。

向こうが透けて見えそうな位、儚げな少女が手を差し伸べていた。

少女の悲しみが理解できる気がした。

その手を取って、分かち合いたかった。

とめどもなく、たみだが溢れてくる。

私は、誰の感情に反応したのだろう。

桂華は、目を開けた。

美しい夕焼けと、恐ろしい曇天が広がる。

遠く広がる草原。

地面に手をついて、立ち上がる。

優しい風が頬を撫でる。

思い出そうとする。

確か、自分は、闇の呑まれて行った。

咲夜姫に手を差し出した瞬間、彼女の悲しみが、自分を覆った。

深い悲しみ。

だけど、その中には、自分への憎しみがあった。

初めてあったのに、この憎しみが何なのか、桂華には、わからなかった。

「ここは、どこなの?」

ぐるっと、周りを見回すと、自分の足元に、誰かが、倒れている事に気がついた。

「えぇ?」

どこかで、見た記憶がある。

銀色の髪に、白いシャツ。

グレーのジャケットを羽織っている。

「確か・・・」

記憶を辿る。

杜の動物病院の先生?

銀色の被毛の美しい狼が、飛び込んできた。

その獣神か。

自分を助ける為、身を投げ出した、この獣神は、何者なのか。

「あの・・」

桂華は、恐る恐る触れてみた。

見たところ、普通の人間と変わらないじゃないか。

「すみません・・・」

少し、肩に触れてみた。

今回が、初めてでない、不思議な感覚が、蘇る。

どこかで、同じ光景を見た記憶がある。

倒れていた。

確かに、この獣神だった。

山神とも呼ばれていた。

深手で・・・。

自分一人では、手に負えなかった。

そこに現れた女性と、この青年を助けた。

が、更に、何かに追われ、その女性に、任せて、自分は、一人、立ち向かって行った。

あれは、何だ?

夕焼けは、次第に闇を連れてくる。

草原の温度は、急激に下がり、桂華は、身を隠せる場所は、ないか探し始めた。

「起きて!」

桂華は、獣神の頬を叩いてみた。

「ここでは、危険だわ」

何度か、頬を叩くと獣神は、意識を取り戻したようだ。

開いた瞳の奥に、蒼い光を見つけた。

その瞳は、夜空の様にも、見える。

「移動できる?」

獣神が、動かないでいるので、桂華は、確認した。

「陸鳳・・・そう、呼んで」

「あ・・えぇ」

動きたがらない陸鳳の様子を見て、桂華は、ハッとした。

「まさか?」

胸の脇の所が血に染まっていたのだ。

「落ちた時に、怪我した?」

私を庇って?

桂華は、言葉を飲み込んだ。

「いや・・・大丈夫」

そう言い、陸鳳は、立ちあがろうとしたが、上手に立ち上がる事は出来なかった。


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