自分が信じていた者は、偽物なのか
古城の中の異様な気配を創宇は、感じていた。
自分が、計画していた事と別の計画が実行されようとしている。
それに、利用されているのが、あの山神達だと、感じていた。
「一体、誰が」
思い当たる人物は、幾つもいる。
この六芒星の陣は、危機迫る状況の中で、誰もが、狙っている。
だが、咲夜姫の事情を知る者は、限られている。
ほんの側近と本人のみ。そして、自分。
この奥底に眠るのは、咲夜姫。
・・・本当に?
創宇は、考えてゾッとした。
どうして、カラクリ箱の鼠は、逃げ出したのか・・・。
古城は、獣神たちの円陣で、成立している。
今まで、逃げ出すなんて、事はなかった。
何かが、起きている。
急ぐ、創宇が古城に張りめぐされた結界の中で、目にしたのは、恐ろしい光景だった。
異形の姿となった咲夜姫が、長い触手で、桂華を飲み込もうとしていた。
あろうことか、山神の兄弟は、術にでも、かかったかのように、動けないでいた。
「何をやっているんだ」
創宇は、剣を抜き、切り掛かっていった。
「止めろ!」
創宇を制したのは、陸鳳だった。
弟の陸羽とは、異なり、王者の風格がある。
人間を母親に持つ、陸羽とは、異なった獣神だ。
「動くと、危険だ」
ふと、足元を見ると、砂の足元には、大きな穴が、空いており、光すら、中に吸い込まれていく。
「これは・・」
「どこぞの空間に飛ばされるか、わからんぞ」
陸鳳は、顔を顰めた。
「創宇。本当に、これがあの咲夜姫なのか?」
「うぅ・・・」
創宇は、唸った。
目の前の異形の生き物は、もはや、原型を留めてなかった。
桂華をしっかりと抱え込み、頭から、飲み込もうとしている。
「このままでは、ダメだ」
陸羽が、無理を承知で、飛びかかろうとするより、先に、陸鳳が動いた。
「陸鳳、まさか」
創宇は、叫んだ。
咲夜姫の姿が、変わっていたとしても、まさか、咲夜姫を切る事は、できないと思っていた。
・・・が、躊躇する事なく、陸鳳は、咲夜姫に切り掛かっていった。
そのまま、無限の砂の穴に、落ちて行くとも、知らずに。
「止めろ!」
そう言いながら、自分は、誰を案じているのか、わからなかった。
咲夜姫なのか、陸鳳なのか、桂華なのか。
この目の前に居る桂華を、どうして、咲夜姫は、取り込もうとしているのか。
なぜ?
この桂華は、何者?
そう、狼の姿と化した陸鳳は、咲夜姫に飛び掛かると、頭上から、剣を振り落とし、桂華を、掬い上げ、穴の中へと吸い込まれていった。
「兄さん!」
陸羽が、追いかける間もなく、2人の姿は、闇の中へと消えていった。