私が、あなたの前世と言っても、信じられないでしょう
咲夜姫の細い腕が、しっかりと桂華を抱えていた。
「長い間、待っていたの。預けた物は、どこ?」
「預けた物って?」
その白い腕から、逃れようとしたが、しっかりと身体に食い込んでいて、離れない。
「離して!」
力ずくで、話そうとするが、力が、敵わない。
「離すものか、ずっと待っていた」
咲夜姫の眼差しは、桂華の魂を吸い取りそうだった。
暗く、その中には、闇しかない。
「桂華!」
陸羽と陸鳳は、駆け付けようとするが、幾つもに分かれた、咲夜姫の職種に憚れていた。
「何だこれ・・」
気が付いて、声をあげたのは、陸羽だった。
咲夜姫から伸びた職種は、細い繊毛を持ち、うねりながら、足に絡みつこうとしている。
「気を付けろ。陸羽」
剣で、職種を避けながら、陸鳳は言う。
「なんで?うわぁ!」
触手の先が、陸羽の足に触れると、
「じゅっ!」
煙をあげて、陸羽の足が燃える。
「うわぁ!兄さん!」
「大丈夫だ」
陸鳳は、冷静に返す。
煙を上げたのは、陸羽の体毛が、焦げたせいだった。
「まずいぞ・・」
咲夜姫の触手h、広がり、桂華を覆い尽くそうとしている。
「何が、始まるんだ・・・」
触手は、桂華の顔を覆うとしている。
「なんで?」
剣で抗おうとするが、触手が異常に暑すぎて、太刀打ちできない。
「この間じゃ・・・桂華が・・」
「いや・・よく、見てみろ」
触手は、桂華を覆うとするが、決して、それは、攻撃的でなく、愛おしい者を包み込むかの様に、大事に、覆っていく。
「何で・・」
陸羽は、桂華が次第に意識を失っていく顔を見て焦っていた。
「よく見ても、変わらないよ」
咲夜姫が、ふっと、微笑むのを、陸鳳は、見逃さなかった。
「本当なのか?」
耳元で、子守唄を囁きながら、触手は、桂華を飲み込んでしまった。
「何でだよ・・・桂華を助けないのか?」
「助ける?お前達が、この子を?」
突然、咲夜姫が、声をあげた。
「助けるのは、私だ。この子を此処には、置いておけない」
触手が姿を変え、薄い羊膜と化していく。
「何だよ・・・」
「桂華を、咲夜姫が、取り込んでしまった」
陸羽は、陸鳳の顔を見上げた。
「兄さん・・・見捨てたのか」
「いや・・・そうじゃない。我々の知らない事が起きているのだ」
「何だよ。桂華は、山社の神女の子孫でなかったのかよ」
「だから・・だよ。逃げ出したのは、鼠。現れたのは、炎龍だが、または、炎の馬と呼んでいる。二つの、獣神を合わせた言葉は、再生。咲夜姫は、蘇ろうとしている」
「そしたら、桂華は、吸収されて、亡くなっちゃうのか?」
陸羽の頭に血が上っていた。