蠱毒。咲夜姫を作り上げた邪術
「私の手をとって」
差し出される手を、桂華は、見つめていた。
「時間がないの」
その少女は言う。
確かに、この女性は、あの眠れる陣の主なんだろうか。
陸鳳は、訝しんだ。
六芒星の陣を、編み上げた女性なら、その能力は、膨大だ。
能力が、無くなったから、桂華の能力を必要とする理由は、何なのか。
陸鳳の表情に陸羽が気づいていた。
「あなたが、この陣の主人という証拠は、あるのか」
桂華と咲夜姫の間に立ち塞がる。
「それは、私が手を取れば、わかる事」
咲夜姫の表情が変わる。
「彼女は、私の分身だ」
「そう言いながら、何度も、危ない目に遭った。あなたの言う事を信じるわけには、行かない」
陸羽の背中の毛が逆立つ。
「この古城自身が、幻影を作り出すと聞いている。あなたは、それではないのか?」
陸鳳が、剣の鞘に手をかける。
「幾つも、罠が仕掛けてあると聞いている。こんなに、簡単に獣神達が、入り込めるのも、怪しいし、何年も、眠りについていたあなたが、ここにいるのも、怪しい」
陸羽と陸鳳に、行く手を塞がれた咲夜姫の目の奥には、怒りの炎が見えていた。
「何も知らない癖に、何を言うのか」
その声は、恐ろしく冷たい。
「誰が、私を閉じ込め、ここから、出れるようにした?都を守れといいながら、永久に閉じ込めたのは、誰なのか?」
陸羽と陸鳳は、顔を見合わせた。
杜の都を守る為に、自ら、陣を張り、人柱の如く、その陣に身を任せた悲劇の姫。その陣は、何年も効力を発揮し、戦国時代には、その力に肖った武将も居た。
現在、災厄が、天から降りてくる時代になり、誰もが、陣の効力を求めるようになっていた。
「閉じ込められた?」
だとすると、聞いていた伝説とは、全く異なる。
それは、彼女が、本物の場合だ。
「お前達は、蠱毒という方法だ」
蠱毒。互いを争わせ、最後に残った者が、最強の毒という。
咲夜姫は、その邪術で、生き残った者と言うのか。
「さぁ。仕上げだ。その娘を渡せ」
もはや、咲夜姫は、人間の姿をしていなかった。
避けた口の中からは、何本もの、長い手が差し出されていた。