咲夜姫。古代の姫は、転生したのか。
古城にたどり着いた創宇は、渋い顔をしていた。
「憂は、取り除かなくてはいけない」
自分に残された時間が、あと僅かなのは、知っていた。
その前に、片付けたい事がある。
獲物は、罠にかかっている。
少しずつ、追い詰めなくてはならない。
だが、気になる事もあった。
咲夜姫の完成した陣を横取りしようとしている輩が、現れ始めている。
今までは、そんな事はなかった。
「凶星か・・」
古城の天守閣から、北の空に白く輝く一点の星。
「一体、何人の獣神達が、気付いているのか」
人の世は、変わっていった。
咲夜姫が守り通そうとした都も、時代と共に変わっていった。
姫が、守ってきた街も、自分達が庇護されている事を忘れていた。
当たり前の平和。
過去に、凄まじい事があったなんて、誰も知らない。
今、ある平和も彼女の犠牲があったお陰なのに。
誰も知らない。
咲夜姫に殉じた自分の事も。
古い歴史書の中に、埋もれてしまった。
陣をこのまま、消滅させて仕舞えば、自分も咲夜姫の魂も自由になれるのに。
どうして、守ろうとするのか。
「創宇。約束して、必ず、守り抜くと」
咲夜姫の最後の言葉が、頭の中に響く。
「必ず、守るから」
咲夜姫が、目覚める、その時まで。
「守り通す」
だけど・・・。
自分には、もう、力が残っていなかった。
陣の綻びと同じ様に。
あの時の事件のせいで。
今・・・この古城の罠にかかった者達が集っている。
「咲夜姫・・・あなたの名前を語る者がいる」
創宇は、古城の中央、螺旋に巡る回廊を見下ろしていた。
「自分の考えが正しければ・・・」
今、咲夜姫の偽物が現れている筈。
「本物に逢っている筈」
本物の咲夜姫。
古城で、眠っている筈の咲夜姫は、そこには、いなかった。
「戻って来ると約束して去った・・・あれから、私は、一人、待っているんです」
創宇は、螺旋階段の中に身を投じていた。