天から災厄が降る前に
「ここにいたか」
陸鳳は、陸羽と目が合うとそう呟いた。
「とんだ事に巻き込まれたな」
そう言い、桂華に手を差し出す。
「過去は、過去、変えられないんだよ」
そう言い、屈んだ桂華を優しく抱え上げる。
「今来たのか?」
陸羽は、兄の顔を覗き込んだ。
「厄介な城だな。さっさと出ようか」
「せっかく、入れたのに?」
「お前達を、連れ戻しにきた」
「もう少し、ここに居て探った方が良くないか?いろいろ面白そうだ」
陸羽は、軽率で、好奇心が強い。元々、山から姿を消した陸鳳を追って、杜の都まで来たのも、この好奇心のおかげだった。
「なんで・・・ここには、こんなに、獣神が集まっているんだ」
陸羽は、鼻を擦る。
「大した、陣だよ」
「そう・・そうなの」
陸鳳に抱え上げられた桂華は、まだ、目眩がするのか、頭を押さえながら呟く。
「大丈夫か?」
桂華に声をかける陸鳳。
彼女への記憶はないが、気になるのは、心の奥底に何かがあるから。
「彼女の事、知っているのか?」
少し、心配になり、声をかける陸羽。
「いや・・・何となく」
何となく、気になる。どこかで、会っている筈。その言葉を呑み込んだ。
「目がチカチカして」
桂華がそう言うと、正面の咲夜姫は、笑う。
「そうね。私達、会うべきではないから」
「ちょっと待て。さっきから、カケラがどうの、とか。会うべきでないとか・・・一体、何の関係が」
そう陸羽が言いかけると、咲夜姫が、右掌を上下に揺らす。
「うっぷ」
陸羽は、口を開く事ができなくなり、慌てて、両腕をばたつかせる。
「相変わらず、おしゃべりな山神ね」
「知っているのか」
「知ってるも何も」
咲夜姫は、突然、3人の目の前に、立ち塞がる。
「呼んだのは、私。カラクリ箱の鼠を逃したのも、私」
「咲夜姫が?」
桂華は、改て彼女の顔を良く見ようとした。
光の加減なのか、白く反射して良く見えない。
「あなたを誰かに盗られる前に、ここに、連れてこなくては、ならなかった」
「私?」
「時間を止めてまで、ここを守ってきた創宇の時間が一挙に戻る。タイミングは、悪いもので、最悪の災厄が、降りかかろうとしている」
「災厄?」
「天から落ちてくる物がある。南の海のそれは、落ちて、巨大な津波にこの国は、呑まれる」
陸鳳と陸羽は、思わず顔を見合わせた。
「そんな話は、噂で聞いていたが」
「本当なのか?」
まだ、二人の山上は、信じられないといった顔をした。
「全て、タイミングが悪い。創宇の守護神としての役目は、終わる。私だけでは、もう、この陣を守り抜く事はできない」
光で、縁取られた咲夜姫は、まっすぐ、桂華を見ていた。
「陣の力を広げて、災厄から、守る為に、力を貸してほしい」