古城の中、誰が姫を殺したのか?
創宇は、愕然としていた。
古城の中に、罠を仕掛けていた筈だった。
侵入を許したのは、疑わしき者達を捕まえる為。
外からは、入れるが、中からは、決して逃げられない。
疑わしき者を捕える為。
逃げ出した鼠(大獅子)は、捕える事ができた。
疑わしき者を捕らえ、全て、元通りになる筈だった。
「どうして・・・」
創宇は、見下ろした。
誰の姿もない。
からくり箱に、鼠を戻す事も忘れ、古城の中心。
長い回廊の上から、人気のない空間を見下ろした。
「鼠は、手に入ったのだろう?」
大獅子と一緒に付けてきた陸鳳が、後ろから声を掛けた。
「やっぱり、ついてきたのか?」
「こうなる事は知っていたのだろう?」
創宇は、笑った。
「そう、簡単に霊獣が現れる事はない。誰かが、仕組んだと考えるのが、普通だろう?」
「時間を稼いだのか?」
陸羽と行動を別にした為に、結果、逸れてしまった。
「山神が、二人も揃っては、何かと、不味くてね」
「俺達、兄弟を知っているんだな」
「それは、そうだ。もう、忘れているようだ」
創宇は、何か、言いたそうだったが、手にしている鼠(大獅子)が暴れるので、宙に放り投げた。
「こんな小細工をしなくても、ここには、来れる。結界は、解いてある」
「何故?集めたがる?」
「今日でないと、ダメなんだ」
「今日?」
「全てが、揃った時に、入り口が開く。時間が流れ、みんな忘れてしまった。私だけが、過去の中にいる」
陸鳳の目にも、創宇の姿は、もの悲しく映る。
「もう、何を言っているんだよ」
窮屈な鼠に化けていた大獅子が、姿を現す。
「結局、お前か。山の連中は、つるむからな」
「悪かったな」
大獅子は、太くフサフサの尻尾を左右に振って見せる。
「長い間、一人でいるお前には、わかるまい」
「大獅子が、創宇に噛みつきそうになるのを、陸鳳は、慌てて、抑えた。
「しっ!」
何かが、聞こえる。
創宇と陸鳳は、顔を見合わせた。
「この歌は・・・」
遠く風の音に紛れて聞こえる。
「子守唄か・・・」
大獅子は、鼻を鳴らす。
「いや・・・」
陸鳳は、呟く。
「この歌は・・・」
「咲夜姫の歌声だ」
創宇が、苦しそうに呟いた。