月の灯りと星が降る中で、咲夜、咲く。
陸羽の立髪を掴みながら、思った。
遠い地平線に、たくさんの光が降り始まっていた。
今まで、光のない世界だったのに。
音もなく。
生まれたての宇宙の空間だったのに、突然、光が振り始まった。
まるで、誰かが、この世に降り立った瞬間を祝福する様に。
「ここに来た理由がわかるわ」
桂華が、地上に降り立つと、陸羽は、人間の姿になった。
「俺には、よく見えないが」
陸羽は、目を凝らしたが、よく見えない。
「凄いわ・・見えないの」
花火の様に、光が散っていく。
その中心に、佇むのは、桂華が、どこかで見た、一人の女性だった。
「待っていたわ。この時を」
「あなたは、誰なの?」
希望とは、違う。どこかで、見た事もあるが、古装に身を包んだ、女性を思い出せない。
長い髪を、背中に垂らし、組んだ腕の中には、見た事もない、生き物が眠っていた。
「逢わなくては、いけないと思っていたの。私は、外には、出れないから。創宇のお陰ね。」
「創宇?あなたは、創宇の知っている人?」
駆け寄ろうとした桂華を、陸羽が、止めた。
「創宇の仲間だとしたら、わざと、ここに来させて、閉じ込めたな」
「私は、閉じ込めていないわ。理由がない」
「だって、逢わなくてはならないと言った」
「そうね。あの子をお使いに出したのに、どこかに、消えてしまった」
「あの子?」
からくり箱の鼠の事だ。
桂華は、陸羽と顔を見合わせた。
「私達に、逢わなくてはならないって、どういう事?」
「そうね。どこから、話したら、いいかしら?」
女性は、血色のない、白い顔で、陸羽の顔を見る。
「どうして、あなたなのかしら?」
「どうして?って」
陸羽は、眉を顰めるが、すぐ、女性が、陸鳳を待っていたと知ると顔を赤くした。
「俺では、不味かったのか?」
「あなたの力だけでは、無理ですから」
「陸鳳は、深手を負っている。また、怪我をさせる気か?」
「怪我?」
女性は、陸羽の表情から、記憶を読み取る事ができるようだ。しばらくして
「あっ・・」
と声を上げた。
「あなたは、何者?」
桂華は、女性の白い顔を見つめた。
白く透明な線は、彼女の輪郭を現し、その姿は、遠い時代の皇族を思わせた。
「創宇・・・を知っているとは」
「古城に眠る。咲夜姫」
その名を呟くと、今まで、白い線で、縁取られていた姿が、色味を帯びて、目の前に姿を映し出した。
「咲夜姫。本当だったんだ・・・」
その姿は、桂華と、瓜二つだった。