生と死を司る者
創宇が得たのは、不思議な鼠だ。
どうして、鼠にこだわるのか。
それは、陸鳳だからこそ、知っていた。
鼠は、誕生を司る獣神でもある。
六芒星の獣神それぞれに、意味があり、その中心の柱には、誕生を意味する鼠の獣神が、しっかりと、咲夜姫の眠りを守っていた。
「鼠が逃げ出しました」
からくり箱の中で、封印されていた鼠が、逃げ出すという事は、その効力を失うという事。
咲夜姫の眠りを守る創宇にとって、あってはならない事。
「探し出せ・・」
そう言うしかなかった。
代わりの鼠など、霊力のある鼠など、そう簡単に見つかる訳がない。
「誰の仕業か?」
それが、突然、宙から鼠が現れたのだ。
「ふ・・ん」
六芒星の中心、古城の結界は、緩めてある。
「罠をかけましょう」
伊織の提案だった。
「獣神達とは、違う能力のある者達が、いるようです。奴らを捕まえて、古城に閉じ込めれば、逃げた鼠は、追いかけなくて済みます」
「他に、能力のある者が?」
「はい。この地の者ではないかと」
「この地の者ではない?」
「海の向こうから、来た者ですが・・・何故か、咲夜姫様と同じ魂魄をお持ちで」
「咲夜姫様と?」
「そして・・・鼠の獣神のようで」
誕生を司る神。創宇が必死に、鼠を探しているのには、もう一つの理由があった。
「死の神が訪れるのが、怖いだろう」
陸鳳は、大獅子に言った。
「死の神?」
「炎の馬が現れる」
「馬?龍でないのかよ」
「この陣の獣神の順番で行くと、馬なんだ。鼠は、誕生を現し、馬は、死を表す。つまり、創宇が願っているのは、誕生と死。つまり、転生なんだ」
「創宇は、あの古城で、咲夜姫の転生を待っているんだ」
「馬を待っているって事か?」
陸鳳は笑う。
「恐ろしい馬だ。」
「炎龍よりか?」
「死を司る馬。全てを、死に至らしめるが、最後には、生をもたらす。それを、待っているんだ。何年も。」
「馬は、現れるのか?」
「そう簡単に現れる訳がない。僕らも、焼かれて消えてしまう」
陸鳳は、鼻で笑う。
「だけど、古城の中に閉じ込められた人は、助けなくてはならない。うまく、創宇に捕まってくれ」
「鼠に化けるのか」
「大獅子と言っても、狐神だろう。得意だろう。騙すの」
「人聞きの悪い」
「とにかく、古城に入ってくれ。創宇は、決して、悪い奴ではない。」
「わかったよ」
創宇と菱王。それぞれ、言い分があるのは、わかるが、六芒星を、求める事態が悪化していく事を、まだ、陸鳳達は、知らなかった。
軌道を外れた、隕石が、真っ直ぐ、向かっている事を。