もう一人の許嫁
「おかしい・・」
六芒星の陣の中央。古城を外から見上げた陸羽は、呟いた。
「陣の中心なのに、結界が解かれている」
「陣が壊れていると聞いたわ。そのせいでは?」
「いや・・・歪んでいるとは聞いた。が、こんなに、外部の侵入を許す訳がない」
「・・・と言うと?」
「罠だと思う」
「誰の?」
「もちろん、創宇だな。獣神達が、反感を抱いている事を、あれだけ、長く座している創宇が、気が付かない訳がない。隙を作り、皆を消すつもりかと」
「陸鳳は?どこ?」
「兄は・・・」
兄は、ここには、いない。誰よりも、尊敬し、慕う兄の匂いは、しない。
「ここには、いない。ここにいるのは・・」
陸鳳を連れ去った陽葵の匂いがする。
確か、陽葵は、今回の件には、関係ない筈だ。陸鳳を外界から遮断し、自分だけの世界に閉じ込めた陽葵が、古城の中にいるとしたら、他に、誰かが、一緒にいるに違いなかった。
「あなたを追って、T国から来た、皇子と侍従がいるようです」
「リファルとエルタカーゼね。まずいわ。という事は、希望も一緒ね」
「そうなるかと」
「ダメよ。希望を助けないと。中に行きましょう」
「中には、行けません。入っても、出てこれるか・・」
「希望を見捨てる訳には、いかないわ。それに、リファルがいるなら
出てこれる」
「信じているんですね。あの子供の様な妖を」
「少なくとも、あなた達よりはね」
「冷たいな」
陸羽は、笑った。
「忘れちゃっているみたいですけど・・僕ら、婚約者同士。許嫁同士ですから」
「だから・・・その話は、知らないの」
「知らないんじゃなくて、忘れているだけです。僕らは、あの夜、お山の祠で、誓い合ったんですから」
「やめて。そんな話。聞いた事によると、私が、中学生の頃の話でしょう?その頃の記憶なんて、全くない」
「不幸な事故だと思っています。だけど、僕の子孫を残せるのは、あなたしかいないと聞いています」
「本当。やめてね。その冗談」
「困りました。埃玉を山から、呼び寄せたら、説明してもらいましょう」
「それより、希望の救出が先。中に連れて行って」
「はいはい・・・だから、陸鳳を危険な目に合わせたんです」
「え?」
初めて聞く事に、桂華は、耳を疑った。
「私と陸鳳の事、知っているの?」
「いやいや・・・あの、知らないです」
「でも・・・今、私のせいで、陸鳳がって・・」
陸羽は、問い止められて目線を外した。
「本当・・・あの。埃玉を今度、呼ぶので、聞いてください。」
「どうしてよ?」
「埃玉のお使いで、兄を探しにきただけで・・・余計な事を言うと、約束の物をもらえなくなっちゃうんで・・」
「なのそれ?」
陸羽は、困って頭を掻いた。
「じゃ・・行きましょうか?僕の背中に乗ってもらっていい?」
陸羽は、すぐ、人型から、狼型に姿を戻した。
「後悔しないで、くださいよ」
「本当!しつこい!」
桂華は、狼型になった、陸羽の背中に乗ると、古城を目座す事にした。