暁月の大獅子
「月が、紅いなぁ・・・」
大獅子は、創宇が過ごす寺社の屋根に居た。
夜空一杯に、輝く暁が不気味に、輝いている。
冷たい夜の空気を肺一杯に吸い込むと、陸鳳を見上げた。
「お手柔らかに」
「加減は、できないかもな」
陸鳳は、笑った。
この屋根の下に創宇は、いる筈。
古城に、リファルやエルタカーゼが、侵入している事を二人は、知らない。
創宇が探す獣神の鼠を、捕まえたと言い、逢うつもりだった。
勿論、逃げ出した獣神の鼠ではなく、大獅子の化身した獣神である。
古城の箱細工に侵入するつもりだった。
誰しもが、六芒星の陣の効力を欲しがっている。
その中心、箱細工の柱には、誰もが、簡単に侵入できる訳がない。
もし、侵入できたとしたら、創宇が、敷いた罠であり、地下へと降りる階段は、永遠に、目的地に届かない事になっている。
何度も、同じ道を行き来する事になっている。
「うまく、やれよ」
そう言うと、陸鳳は、背にしていた弓を下ろした。
「ど・・どうするつもりだよ」
大獅子は、びくついた。
引いた弓矢は、自分に照準を合わせている。
「ビビるなよ・・・なるべく、小さくだ。小さく」
「やだな・・」
大獅子は、それらしく、小さな鼠に姿を変えた。
「ちゃんと、助けてくれよ」
「微妙な立場だよね。創宇と菱王の、どちらかには、睨まれる」
「お前に、睨まれるよりは、いい」
「そうか?後悔するなよ」
そう言うと、陸鳳は、大獅子目掛けて、弓矢を引いた。
「ビュッ!」
音を立てて、弓矢の刃先は、大獅子の首輪を抜けて、寺社の屋根を越えて、庭先へと飛んでいった。
「バァーン」
音を立てて、庭先の渡り廊下の柱に、大獅子の首を引っ掛けたまま、突き刺さった。
「へ」
陸鳳は、鼻を掻くと、重なった屋根の間に、身を潜めるのだった。
「いてぇよ」
大獅子は、小さく、呟いた。
陸鳳の放った弓矢は、自分の首輪を抜け、ちょうど、ひっかけた形になって、柱に打ち込まれている。
「下手なんだか・・上手なんだか」
首輪毎、柱にぶら下がっている。
準備は、万端だ。
あとは、この気配に、誰かが、気付くのを待つだけ。
案の上、一人の僧侶が気配に、気づき、慌てて、渡り廊下を走り抜けていった。
「おぉ・・・予想からいくと・・」
おそらく伊織。
あの体格と、禿げ上がった頭に、彫られた刺青が、それを物語っている。
左耳の後ろに咲く、桜の刺青。
「それを見る度に、創宇は、憂鬱になるんだよ」
陸鳳は、じっと、下を見下ろす。
ぐったりと意識を失ったふりをする大獅子。
そこに銀髪の創宇が姿を現した。