刻まれた過去の記憶
それより、少し前。
壁絵の中の一つに触れたリファルが、突然、大粒の涙を流した事が、エルタカーゼを驚かせた。
「どうしたのです」
リファルは、嗚咽を上げながら、壁絵に触れる。
「どうしてなんだろう・・・何故なんだ?」
壁に触れた指先が、深く突き刺さる。
「僕は、この人をよく知っている」
「よく知っているとは?」
壁絵の中の一つに、椅子に腰掛けて微笑む女性の姿があった。髪は長く、白い長衣に身を包み、膝には、可愛らしい小動物の姿があった。
「まだ、幼い少女です」
エルタカーゼは、リファルと見比べた。
「そうだよ。まだ、幼かった。子供だったんだ」
「どうして、知っているので」
「逆に、どうして、ここにって、思っている」
「少女は、誰なんです」
「僕の無くした大事な友・・・」
「友達?」
にしては、嗚咽をあげて咽び泣くものだろうか。少女の膝の上に、小さく丸まる、動物の姿に、目が止まった。
「まさか、これは?」
「どうだよ・・・僕だよ」
「えぇ?どうして、ここに?」
「わからない・・・」
リファルは、首を振った。階段の脇の壁には、あらゆる壁絵があった。おそらく、この城の歴史を描いたものだろうが、そうとは、思えない、古代の壁画も混ざっていた。六芒星の獣神達の姿を模した壁画が多い。
「獣神達とこの少女の膝の上のリファル様。そして、古城の柱の鼠。全て、つながっているのでしょうか?だとすると、我々は、あの少女を誘ったというより、連れてこられたのでしょうか?」
リファルは、じっと、少女の顔を見つめている。
「まさか・・・ここで、逢えるとは、思わなかった」
触れるリファルの指先。口の中で、リファルが、何かをそっと呟くと、空中に細かい光の粒が現れていく。
「リファル様。ここで、それを使っては・・」
エルタカーゼが、止める間もなく、光は、次第に集まり、空中に少女の姿が現れた。
「何処に居るのか、ずっと探していた」
宙に、ぼんやりと少女の姿が、浮かび上がる。
「どうして、ここに、君の姿があるのだい?」
少女は、答える訳ではなく、頷き、そして、光の粒となって消えていった。
「また・・・逢えなくなった」
「ここで、彼女の姿を召喚できたという事は・・」
「黄泉の世界にいるって・・・事だよ。やっぱり」
光の粒は、風に乗り、現在、二人が降りてきた地上へと消えていく。
「きっと、また、逢えると思います」
エルタカーゼは、リファルの気持ちを代弁した。
「一体、この壁画は、何を意味するのでしょうか」
幾つもの絵を確認しながら、降りていく。
ふと、この城の主人と思われる絵の違いに気づいた時、2人を追いかける様に、降りて来る姿に気が付いた。
それは、光の粒が消えて行った地上からだった。
「やっと、逢えました」
それは、初めて見る女性だった。
「お願いしたい事があって、参りました」
それは、陸鳳の側に使える陽葵だった。