陸鳳から、離れない。
山が燃えていく。
陽葵は、炎龍が駆け降りていく斜面を、震えながら見ていた。
この景色を、陸鳳は、見ているのだろうか。
過去を思い出し、恐怖に震えていないだろうか。
折角、過去と決別し、ここまで、逃げてきたのに。
陸羽は、すぐ、陸鳳の居場所を嗅ぎつけて、現れた。
ほんの一月前の事だ。
獣医として、静かに生活していたのに。
あんな人間の女の事なんか、忘れてしまえばいい。
「君が助けてくれたのか?」
傷だらけで、倒れていた陸鳳を見つけたのは、自分だ。
誰かが、救助した後があったが、その時は、誰も、いなかった。
「あの人だ・・・」
以前から、恋焦がれていた山神様が、自分の前にいた。
片思いだった。それまでは。
決して、手に入る訳がないと思っていた。
「ここは、危険です。安産な場所に移動しましょう」
すぐ、仲間を呼んで、その場から離れた。
頭から、陽葵のフードを掛けられた陸鳳の正体に誰もが気付かなかった。
「炎龍に襲われたの?」
そう思われる怪我が、何箇所か、あった。
「奴らは、一度、目を付けた相手は、死ぬまで、襲いに来るって話ですぜ」
仲間が、口々に言う。
「何処に逃げても、危険だ。ただ・・・」
「ただ?」
「杜の都に、行けば逃げられるかと。六芒星の陣が、守ってくれると」
「悪しき侵入者は、阻止すると聴く。害なければ、逃げ込める」
「だが、街あるとみなされた場合は、入る事は、できない」
「六芒星の陣・・」
噂では、聞いた事がある。
「確か、戦国時代に、武将が敷いたと・・」
「いや・・・」
仲間は、皆、首を捻った。
「人間が、行ったにしては、違いすぎる」
「とんでもない、からくりがあるって話だ」
不安は、あったが、傷ついた陸鳳を守る為、陽葵は、仲間と杜の都を目指す事にした。
あれから・・・。
陸鳳の怪我は、回復したが、首元から胸への傷跡は、残っていた。
「呪詛だ」
「呪詛?」
呪詛は、掛けた者にしか解けない。一体、誰が掛けたのか・・。
「炎龍が、できる訳はない」
だとしたら?
「あの人間の女なのか?」
山神の元に現れた一人の女。
陽葵は、その女が、誰なのか、知っている。