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創宇。届かぬ大古への思い

時間を止めよう。

そんな事ができるのかと思った。

自分の思いは、届かないかと。

「どうして?」

創宇は、膝をついた。力なく、項垂れる。

「一緒にいる事はできない」

咲夜姫は、言った。

「創宇。私の悲願を叶えて」

古城の奥底に、咲夜姫と創宇はいた。

「他に方法はないから」

自分が擬勢になって、陣を敷くという。

「他に方法があるはずです。一緒に探すと約束した!」

創宇は、止めようとしたが、咲夜姫の意志は、硬いようだった。

「最後の力を使います」

創宇の頬を一筋の涙が伝い落ちた。

「ここを、守り通してほしい」

言われなくても、そのつもりです。

そう言いたかったが、言葉が出なかった。

咲夜姫に仕えたくて、大陸から、渡ってきたのに。彼女には、この地の事しか、頭になかった。

「あなたに、仕えたくて、ここまで、来たのに」

やっとでた言葉は、咲夜姫に、届かなかった。

「せめて、遺髪だけでも、残して欲しい」

創宇は、恐る恐る手を伸ばした。

「創宇。ごめんなさい。一番、辛い事をお願いする」

咲夜姫は、自分の長い髪を右手で、絡みとると、創宇の差し出された手に触れた。

「創宇。ここにいてほしい」

え?創宇が、顔をあげ、咲夜姫を見上げた瞬間。白い光が、空間を切り裂いた。

「咲夜姫?」

何が起きたかわからなかった。

あたり一面、白い光に包まれていた。空間に咲夜姫を感じた。

「咲夜姫」

手に残ったのは、咲夜姫の一筋の髪。

光は、周りに吸収され、いつもと、変わらない古城の底だった。

「一体、どこに」

踏み出そうとした足先に、何かが当たった。

「え?これは?」

先程まで、咲夜姫と同じ衣装を着た骸が転がっていた。

「これは・・・」

咲夜姫であるはずが無い。咲夜姫が、こんな悲しい姿の訳がない。

呆然とする創宇の耳に、階段を降りる幾つかの足音が、聞こえてきた。

「創宇様!」

口々に彼の名を叫ぶ。

「咲夜姫様・・・。決断なされました」

「陣が完成したようです」

「姫様が、昇天され、敵の侵入を塞いだようです」

「創宇様!」

創宇の耳には、何も、届かなかった。

この足元にあるのが、誰の遺体なのか。

認めたくない事実。咲夜姫は、どこに行ってしまったのか?

敵の侵入を塞いだという事実しか、信じられない。

「咲夜姫様が、お役目を滞りなく」

「ふざけるな」

思わず、従者を、殴ってしまった。

「一人に、こんな役目をさせてしまって」

「創宇様・・・創宇様も」

従者達が、創宇の姿を見て、顔色を変えていた。

「何?」

剣先に映った自分の顔は、別人のように、髪は白く、深い皺が刻み込まれていた。

「これは・・・」

驚いたのは、何年前の事だろうか。

「幾つの夜が、私を超えていった?」

あれから、長い年月が流れる。あの遺体は、棺に収め、古城の奥底で、眠っている。

「戦国時代の武将が作った六芒星の陣か・・」

創宇は、笑った。

その陣が、できる何年も前に、築き上げたのは、始祖の姫神である事を、誰も知らない。創宇は、一人、姫につきそう。

目覚める事を信じて。


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