陣に潜り込め
陸鳳にしては、好戦的だった。
「話には、聞いていたが」
伊織は、怯んだ。
獣神は、知っている。六芒星の獣神達、それぞれに逢う事はあった。
その名の通り、6箇所を、獣神が守っている。それぞれの方角の守護神。
だが、山神との対決は、初めてだった。
真の姿で、向かってきた陸鳳は、恐ろしい外見をしていた。
「狼か?」
背中から、頭にかけて、首も太い。銀色に波打つ毛皮を持つ生き物。
もう、遠い昔に滅びたと聞いている。
「生きて・・・いるんだ」
六芒星の外にも、生きている古代の王がいる。
「うぅ!」
胸を抑えられ、伊織は、振り落とそうと躍起になる。
「用があるのは、私か?」
「深い怪我を負ったと聞いている」
創宇から、陸鳳の話は、聞いていた。
姿を消した山神が居た。何年かして、姿を現したが、深い傷を負っており、記憶の一部がなくなっていた。
ーそれから、それから、なんて言っていた?
伊織は、頭を巡らした。こいつが、そうなのか?
こちらを睨む目が、あまりにも、恐ろしく、思考が止まる。
「誰を探している?」
「それは・・・」
探してこいと言われたのは、
「鼠」
です。
金と銀色に輝く瞳に吸い込まれるように、答えてしまった。
「鼠か?」
陸鳳は、笑った。大きく裂けた口は、耳まで、開いてる。
「鼠なら、ほれ」
陸鳳は、そう言うと、伊織の胸から、トンと降りた。
「ほれ?」
転倒した伊織が、陸鳳の前足が指す方を見ると、そこには、大きな鼠がこちらを向いていた。
「鼠?」
そこには、丸々と太った大きな鼠が、こちらを見ていた。
「お前が探している獣神の一人では?」
創宇と言っていた鼠は、こんな鼠だったろうか?伊織は、考えを巡らせた。
「逃げたあの栗鼠?いやいや、本来は、陣の隠し扉にいた鼠?」
「陣の隠し扉に鼠とな?」
小さく呟いた声を、陸鳳は、聞いていた。
「どこからか、逃げ出した鼠かもしれない。連れ帰るがいい」
伊織は、その鼠を目で追いかけていた。