昨日の友は、明日の敵
炎の風が舞い上がった。陸鳳は、動くのが早かった。エルタカーゼの腕から、桂華を奪い取り、そっと陸羽の腕に渡していた。炎の渦は、止まらず、その場に居る者を恐怖に陥れた。
「炎龍か」
菱王は、顔を顰め、袖で鼻を覆った。
「今も昔も変わらず、炎は、苦手なのは、皆、変わらんか」
忌々しく後退する。
「ここまで、炎龍が現れるようになったとは」
陸羽は、桂華の様子を伺いながら、陸鳳に言う。
「陸鳳。早く、ここを立ち去った方がいい」
陸羽の耳が、小さく震えている。
「あいつが来る」
「わかっている」
陸鳳は、自分の胸の傷を抑えた。幾つもの炎の渦に、古傷が疼く。思い出したくない記憶が蘇りそうだ。
「その傷は、あいつなんだろう?」
陸鳳は、胸の傷については、何も覚えていないと言う。あまりにも、酷い記憶の為、意図的に忘れてしまった可能性もある。陸鳳に聞いても、答えては、くれない。炎の渦から、桂華と陸羽を守るように立ち塞がるだけだ。
「いいから、先に行け」
陸鳳は、陸羽に桂華を託し、リファルとエルタカーゼを寄せ付けないようにしていた。
「とんでもない、客が来そうだな」
菱王は、顔を顰めた。
「奴が来るのか?」
「逢えるのが、嬉しそうだな」
陸鳳は、皮肉を言った。
「お前こそ。結局、殺し合ったと聞いたぞ」
陸鳳は、陸羽に、桂華を安全な場所に移動するように合図を送っていたので、そっと、彼は、その場を離れていた。確認するように、振り向くと、
「山上同士色々、あるんでね。籠の中の鳥とは、違うんだよ。おっと、鳥ではなく、鴉だったかな?」
「バカにしおって。お前達は、関係が壊れたと聞いている。お前達が、戦っている間に、逃げさせてもらうよ」
それより、黒い影が地に降り立つのと、同時に、菱王は、空へと駆け上がっていった。
「陸鳳。生きていたんだな」
現れたのは、炎龍を引き連れた黒い大獅子だった。
「生きていたみたいだよ」
「トドメを刺せなくて、残念だった」
「どうして、こんな箱の中に、お前らがいるんだ?山神の兄弟が、山を降りるとはな」
大獅子は、陸鳳や陸羽と同じ、山の神で、六芒星のある都とは、全く関係ない。大獅子は、六芒星の陣を見下して箱と言う言い方をしていた。
「蒼羽まで、どうして、ここに?」
「お前に答える義務があるか?あの時の決着を今、ここでつけようか?」
「あの時?」
陸鳳は、首を傾げた。
「あの時?何があった?」
「知らないふりをするのか?まだ、俺をバカにしているんだな」
大獅子の手から放った炎の竜は、細く幾つもに分かれ、陸鳳に遅いかかるのだった。