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山神のプライド

桂華は、思わず、陸鳳の耳元に唇を寄せていた。細く長い口笛。この音程が何なのか。自分の体の中に流れている音楽が、陸鳳の体に流れていく。自分でも、不思議と落ち着く音程。忘れてしまった遠い日が、蘇ってくるようだ。記憶は、香を呼び、太陽の様な、乾いた匂いが脳の奥をくすぐった。

「陸鳳?落ち着いた?」

まるで、猫の様に、喉を鳴らしながら、陸鳳は、桂華に体を委ねていた。長いまつ毛が影を落とし、少し、震えていた。あれほど、苦しみ体を捩っていたが、今は、嘘の様に、静かだ。

「聞こえている?陸鳳?」

「あぁ・・・」

陸鳳は、深く息を吸うと、ため息をついた。

「すまない。急に、頭や胸が・・・」

掻きむしった胸の傷が痛々しい。

「何か、聞こえたのですか?」

リファルが、桂華と陸鳳の間に、割って入ってきた。

「僕にも、血の底から、暑苦しい音が聞こえてきました」

リファルは、あくまでも、紳士的だ。

「何かが、この地で、起きようとしているのでしょうか?」

「それなら、私達と一緒に、この国を出ませんか?」

エルタカーゼが、リファルの言葉に重ねて言う。桂華をなんとか、連れ出したいようだ。

「このまま、ここにいても、大変な事に巻き込まれるに違いありません」

「・・・だけど」

桂華は、陸鳳の顔を見ながら言った。

「この状況で、行く事はできないわ」

もちろん。状況が変わっても、日本を離れる気などない。

「危険が迫るなら、離れた方がいい」

陸鳳は、頭を振りながら言った。

「このままの状況で、逃げる訳には行かないだろう」

陸羽が、そっと陸鳳に寄り添う。何かが、起きようとしている。

「だから、力を借りたい。六芒星の陣の守護神、創宇を打ちたい」

菱王は、徐に剣を抜き、陸鳳と陸羽に突きつけた。

「この剣は、山神であろうと、焼き切る事ができる。もはや、六芒星の陣が狂い出すのを止める事が創宇にはできない。私に手を貸せ。創宇を打ち、私が変わって陣を守る」

「それで、その剣は、どういうつもりなんだよ」

陸羽は、素手で掴もうとし、陸鳳に止められる。

「創宇に味方になられると困る。ここで、消滅してもらう」

「お前!山神になんて!」

陸羽が、菱王に襲いかかりそうなので、慌てて、桂華と陸鳳が抑える。

「菱王の味方になるのかは、考えさせてほしい」

陸鳳が、そう言うので、菱王は、剣の刃先に力を入れる。紅い筋が、陸鳳の首筋につく。

「そう焦るなよ。今起きている異変の原因が、創宇の守りきれない六芒星が原因なら、変えなくてはダメだろう。異変を止めるのが、目的。我々は、それが目的だ」

「わかったか?形は、違うが、同じ事をするって事だ」

陸鳳に続いて、陸羽は言った。陸鳳の傷が赤く腫れている。あの苦しみようと言い、地底からの不気味な音。西の山が赤く燃えている状況を見ると、思い当たる事がある。

「俺達は、俺達のやり方でいいか?」

陸羽の鋭い爪が、菱王の首元に向けられていた。

「俺はさ。兄者と違って、人間の血が入っているから、純粋な山神と違って、規則は、守れないんだよ。感情的になったら、止められないからな」

「それは、困ったな」

菱王が、剣を戻そうとした時、陸鳳の視線が外側に動いた。その表情の変化に気が付き、陸羽も身構える。菱王は、一瞬、気が逸れてしまった。

「いつの間に?」

菱王は、叫び、剣を振り上げる。皆の視線の先に、桂華を抱えるリファルとエルタカーゼの姿があった。


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