陣の主人は、誰なのか?
異世界から来た者は、排除しなければならない。陣を破壊される事はあっては、ならず、持続させる事が創宇の役目である。その為、創宇には、時間を与えられる事は、なかった。人々が、時間の経過とともに、壊れ、朽ち果てても、その姿を保った。まるで、呪いにかけられたかの様に。時量師と呼ばれ、過去の時間を行き来するとも、噂され、陣の守護神達に一目置かれ、敬われていた。現代でも・・・。創宇は、一目置かれる存在の筈だったが、時代は変わっていった。大陸からの情報は、入り乱れ、日本各地の結界は、荒らされ機能を失っていった。それに伴い古来からの信仰は、消え去り、信仰の上に成り立っていった呪術も、制御できないものになっていた。古代から眠る神は、荒らされ、神獣も制御できなくなり、身を危ぶまれる結果となった。かの陸鳳、陸羽の兄弟も、その後者とも言える。山神が、その御神体である山を追われる時代。創宇が、何としても、守りたい陣も、綻びが目立ってきた。
「侵入者は、許さじ」
あの大戦も、潜り抜けてきた。寺社を守り、次の時代に送る咲夜姫の悲願を達成するお役目。現在も、守り続ける。
「この所、この国とは、何の所以もない妖の往来が目に余る。許したのでは、陣の根幹にも関わる」
創宇が守りたいのは、陣だけなのか、その奥底に眠る咲夜姫なのか。伊織は、創宇に不信感を抱いていた。創宇とは、違い六芒星の他の寺社の獣神からの声が、遠慮なく聞こえる。創宇の考えについていけない。もう、陣を開放する時だと。誰もが、思うが口には、出せない。創宇の右腕として、当たり前のように、支えている伊織に、耳打ちしてくる。
「創宇にも、考えがある」
そう、自分に言い聞かせ、創宇の考えに従ってきたが、どうにも、腹が立って仕方がない事があった。それが、あの栗鼠だった。
「逃すではない」
創宇は、伊織に預けていった栗鼠を厳重に管理するように言い渡した。だが、伊織が目を離した隙に、何者かに、栗鼠は攫われていった。
「なぜだ?」
創宇は、真っ赤になって伊織を叱咤した。それも、大勢の弟子達の前で。寺社を守る守護神であり、弟子のいる身。大勢の前で、叱られるのは、苦痛以外の何者でもない。栗鼠が何者なのか?創宇は、教えてくれなかったでないか?伊織は、憤慨した。誰かが、自分を陥れようとして、栗鼠を攫ったのか?伊織は、荒れた。まさか、同じ獣神が、連れ去ったとは、知らずに。菱王は、創宇に異を唱える獣神の一人。創宇が意なる妖を保護したと聞いて、探りを入れ、伊織の目を盗んで、掠め取った。
「陣を仕切る創宇に取って代わる」
若き菱王は、時量師、創宇に取って代わろうとしていた。