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雪兎、空を飛ぶ

少年が夢の中に消えた後は、現実の世界に引き戻されていた。狭い飛行機の中は、悲鳴と身を捩って逃げようとする人々の姿が、目に入った。悲鳴は、自分の後ろの席から起こった。窓際に座っていた青年が、突然、喚きながら立ち上がり、何かを振り回しているのだ。

「お客様!落ち着いてください」

乗務員の見目麗しい女性が、制するが興奮した青年が収まる様子はなく、隣の席の年配の女性は、恐怖に慄き、床に座している。青年は、両手を振り回し、手に触れた物を辺りに、投げつける。

「手に何かを持っている!」

誰かが、叫ぶ。窓の向こうの光が、青年の持っている何かに、反射し鋭い光を帯びる。

「刃物?」

「まさか!運び込める訳ない」

「だけど・・」

周りの物は、逃げ惑いながら、様子を伺う。桂華も、当然、立ちあがろうとすると、誰かが、足首を掴む。

「こんな所で、何かが引っ掛かる」

逃げたいのに。桂華が、足元を確認しようと、見下ろすと何かと目があった。

「え?」

入る事のないスペースの椅子の下から、少女が顔を出し、桂華の足首を握っている。髪は、乱れ、目は虚だ。

「ちょっと」

桂華の手を友人がひくが、動く事はできない。

「早く、逃げて」

友人の声の荒さに、青年が、反応する。

「やばい」

注意を青年に向けたいが、桂華は、足首を握る少女の顔から、目が離せない。

「先に逃げて!」

友人の肩を押すのと同時に、額の上の髪を何かがかすった。

「!」

顔を上げると、青年と目が合った。

「危ない!逃げなさい」

周りの声が、重なった。当然、身の危険を感じ、逃げるなら、逃げ出したい。が、しっかりと自分の右足首を握った少女は、爪を立て、じわりと笑いながら、桂華を見上げていた。ゾッとした瞬間、青年の手に、光る何かが、握られていたのが、見えた。

「刺される」

身を屈めた瞬間だった。

「パッカーン」

小気味のいい音が響き、周りの乗客がどよめいた。桂華の目には、青年の体が横になり、シートに沈んでいく姿が映っていた。

「え?」

その音に、反応するかのように、足首を掴んでいた少女が手を緩める。

「誰なの?」

顔を上げると、そこには、長い髪を後ろで、束ね、細長い髪飾りで、一つにまとめた幼い顔の女性が絵の前に立っていた。

「大丈夫?」

幼い顔を持つ女性は、桂華の顔を覗き込んだが、瞬間、吐き気が襲い、思わず、シートを飛び越えて、トイレへと走り出してしまった。女性は、桂華の友人に声を掛け、後を追いかける様に言うと、ハンカチを差し出していた。この女性とは、今後、桂華が、何度も、危機的な場面で、会うことになっていく。

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