陣を作り上げた武将の伝説
長い時間が、彼を一人にしていた。どうしても、守らなくては、ならない人がおり、長い時間は、何の為に、彼をここに縛り付けてしまったのか、思い出せなくしていた。ただ、わかっているのは、棺に眠る咲夜姫は、自分の大事な人だったという事だけだった。
「どうして私を置いて逝ってしまった？」
創宇がどんな言葉をかけようと、棺の中で、眠る姫は、答える事もなく、ただ、どこまでも、透き通る肌は、生前同様、美しく、長い時間が経過したとは、思えない美しさだった。陣は、この姫が作り上げた物だった。都市伝説では、戦国時代に武将が作り上げたという話になっているが、真実は、そうではなかった。
「陣を完成させるには、人身御供が、必要になる」
咲夜姫は、そう言った。勿論、創宇は、自分自身がなるものだと思っていた。
「最初に、この陣を作り上げた者が、最後に仕上げる。創宇には、まだ、無理だ」
咲夜姫は、そう言い犠牲となった。恋人、創宇をその場に置いて、戻らぬ人となった。
「一体、どうしてですか？」
自分の身を犠牲にしても、守りたかった都。北の本陣とも言われる杜の都。その中心から、鬼門の方角には、霊峰が連なり、その一つには、水晶を精にもつ霊獣が住んでおり、吐く息は、流行病を引き起こし、時折、山を降りて、その地に住む人民を苦しめた。霊峰には、山神が居たはずだが、その山神は、閉じ込められており、霊獣を抑える者は、誰もいなかった。高僧の作り上げた陣を咲夜姫が、完成させ、その呪いを受け、儚く散っていた。
「もう、この陣を守っていく必要はないのか？」
創宇の心の揺れが、陣の礎を揺るがす。霊獣は、消滅してはいない。ただ、地挙れないだけ。山神は、現れず、この陣も狂い出している。創宇にできるのは、山神を探し出すか、自分で、霊獣を消滅させるか、新たな陣の犠牲者になる華、その中の一つだった。
「それなら、私は」
咲夜姫の守った陣をこのまま、壊す訳には、いかない。創宇は、棺の中に眠る咲夜姫が、抱く1本の剣を手にした。
「それなら、私が、お守りしましょう」
自分も、変わらず陣を守り切る。それが、咲夜姫への想いを告げる方法なのだから。
