私達を結びつけた事
「どうして・・・あなただったのか」
咲夜姫は、鳴いた。
ほんの数時間前、陸鳳の背に飛び乗って、九州まで来ていた。
「また、逢えるか?」
陸鳳は、聞いた。
「答えられない」
言葉を選びながら、伝えなきゃダメだ。
期待させる事を言っては行けない。
もう、二度と、ここには、帰って来れないから。
「答えられないのか?」
陸鳳は、優しく言った。
「二度と、会えないと思う」
「六芒星の陣が引き寄せたから」
陣があるから、自分は、戻れた。
この地には、ない。
希空は、獣神だった。
彼女が、還る事で、陣は、元の力を取り戻した。
だが・・・。
この地は。
陣の力は、遠く及ばない。
「私は、戻らなくてはならない」
もう、力が残っていない。
陸鳳だけでも、仙台に帰したい。
「いいか・・・山神。よく聞くのだ。鉾を抜く事で、何が起きるか、わからない。お前は、そのまま、戻るのだ」
「戻りはしない」
「ここにいても、お前は、役に立たない。古代の神の前では、お前は非力だ」
「だとしても、そばにいる」
数時間前、陸鳳と咲夜姫は、菱王の案内の元、鉾が刺さった霊山に辿り着いた。
長らが、出迎え、咲夜姫に鉾を打ち付ける事を願われるが、それを拒否。
逆上した獣神達に、襲われるが、菱王と回避、鉾の刺さった霊山の地下へと、辿り着く。
だが、そこは、恐ろしい火河が流れる中央に、刺さった鉾があった。
「陸鳳は・・・」
炎にトラウマがあった。
あの鉾を抜く為に、犠牲になる事が考えられる。
菱王は、お皿との戦いで、瀕死の状態だった。
「私が行きます」
降り注ぐ災厄から、守っていた力を鉾が押さえている。
抜く事によって、
その力は、解放され、全土は、守られるだろう。
だが、
それを抜く者は、大きな代償を払う事になる。
「咲夜姫・・・いいや・・・桂華」
陸鳳は、決めていた。
自分が、行こうと。
「私には、陸羽がいる・・・あとは、大丈夫だから」
「何を言う?私は、その為に、戻ってきた」
蘇る記憶。
そこにいるのは、陸鳳。
誰でもない。
「君が、行くなら、私も行く」
「よせ・・・最初から、私は、そのつもりだった。私の計画に、お前はいない」
咲夜姫は、炎の河に飛び降りようとする。
「待て!」
手首を掴む陸鳳。
「なら・・・一緒に」
「離せ!落ちたら、お前まで・・・」
「冥府の花嫁に行くんだろう?それなら。私も一緒に」
「ダメだ・・・」
落ちていく咲夜姫に、陸鳳のシルエットが重なっていく。
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「火球が・・・」
陸羽が、陣の中から、空を見上げていた。
あれほど、降っていた火球が止み、空一面に星が瞬いていた。
「静かに・・・静かになりましたね」
エルタカーゼが言った。
「力が、解き放たれたな・・・」
ポツンとリファルが言った。
「結局、咲夜姫を連れ帰る事は、できなかったか」
「また・・・どこかへ行ったのでしょうか?」
「そうだな」
「一人でしょうか?」
「今度は・・・一人ではない」
「良かったんでしょうか」
「どうだろうか・・・時間が、答えを出してくれるはずだろう」
地上に降り立った一人の姫が、陣を敷いた。
守りたい人がいたから。
そして、
再び、戻った。
また、どこかで、逢えるかもしれません。
狼に乗った姫が、
仙台の杜に戻れましょうに
完