始まりは、そこに
「あ!」
誰もが、そう思った。
陸鳳さえ、動く事ができなかった。
「ここが、よければいいなんて、思うなよ」
菱王の右手が、咲夜姫の喉元に、絡みつく。
「九州を見捨てると言うのか?」
「それはない・・・」
咲夜姫は、息も、絶え絶えに言った。
「全て、決まっていた事だから・・」
「決まっていた事だと?火球が降り注ぎ、仙台だけが、守られる事が?」
「苦しい・・・」
菱王の手を、外そうとする。
「菱王。知っているんだろう?知っているのに、なぜ、咲夜姫を捕まえる」
「これから、九州に飛ぶ。九州が、火の海なんだ。災厄が、降ってきているんだ」
「始まりの地は、そう、簡単に、終わらない」
咲夜姫は、絞り出すように言う。
「鉾は、抜けるのではない」
「何?」
菱王の隙をついて、陸鳳が、咲夜姫を庇った。
「鉾が、抜ける事がいけない?誰が、そう言った?」
「誰って・・・長が・・・」
「鉾が抜けるから、守れないんじゃない。守る為に、鉾が、抜かれ、力を解き放つ。全て、繋がっているのだよ」
キッパリと、咲夜姫は、言った。
「鉾が抜けると、具合の悪い奴らが、居るようだな・・・」
「そもそも・・・災厄は、降ってきているんではない。呼び寄せられているんだ」
陸鳳は、六芒星に守られた空を見上げた。
「どういう事だよ」
陸羽は、陽葵の身体をきっちりと、縛り上げ、地上に転がしていた。
「災厄が降ってくるから、六芒星の陣を敷いたんじゃないのかよ」
「降ってくるのではなく。呼んでいるのです。私も、呼ばれて、この地に、降り立ったの」
咲夜姫は、言った。リファルとエルタカーゼが、思っていた事と同じ事だと。
「この地に、呼び付けられ。帰れなくなった・・・」
「あぁ・・・そうだ。本当に、咲夜姫だ」
「長年、探していた」
咲夜姫を乗せたスターシップが、墜落したのは、遠い昔。どんなに、望んでも帰れない。彼女は、その時、出会った。創宇を守る為に、六芒星の陣を張った。
災厄を吸い寄せる物が、この地の果てに眠っている事に、気が付いていたが、咲夜姫の体は、この地の時間の流れについていけなかった。
「この地を去るしかなかった・・・」
新しい身体を得るまで、古城の中で、眠りについていた。
「そうしたら、災厄を呼んでいるのは」
陸鳳は、行く気だ。
「鉾を抜かねば、なりません」
神話で、守られた九州の地。
激しく炎が、巻き上がっている。
陸鳳は、炎に対して、恐怖がある。
「行けますか?陸鳳。」
もはや、そこに居るのは、桂華ではない。
天より、降りし、姫だった。
「行けます」
そこに居たのは、山神の長だった。