そして、君は消える
「ダメだ!」
小さな悲鳴が幾つも起きた。
「九州が・・・」
菱王は、動揺し、陽葵をしたたかに、殴った。
「何をする!」
慌てて、陸羽は、菱王を抑えた。
「そもそも、お前がたきつけたのだろう?」
どの地も、災厄から我が故郷のみを守る事を優先とした。
天から降る災厄の事態から、逃れるべく、あらゆる方法を模索していた。
神が誕生した地。
終焉の地を探し、伝説を掘り当てた。
何処の地の者も、自分の故郷を優先し、
生き残りを賭けた。
九州の鉾を抜いたのも、同じような者達だった。
当然、仙台の六芒星の陣を狙ったのも、
同じ、一握りの小さな存在の民だった。
「結局、誰もが、同じ事しか考えていないのか・・・」
陸羽は、首を振った。
兄である陸鳳は、空を掛け、火球と戦っている。
地面は、揺れ、中から、炎が吹き出している。
地軸が狂い、聞いた事のない音が、響いていた。
咲夜姫は、自分が帰る事も忘れて、一人の男を守ろうとしていた。
「しっかっりして・・・」
創宇は、希空の手を握った。
「私が何か・・・」
そうであろう、自分が何者かわからない希空にとって、何が起きたのか、理解できないだろう。
「希空!しっかりして」
「桂華・・・私、どうしたの?冥婚状をもらったのは、あなただったのに」
「そう・・・そうよ。だから、大丈夫。私が花嫁になるの。希空ではないわ」
・・・だから。
助かる?
「希空は、咲夜姫なんでしょう?だったら、助かるわよね」
「いや・・・この体は、限りがあるから」
リファルが、寂しそうに言った。
「前の咲夜姫がそうであったように。終わりがない訳ではないんだ」
「桂華。私は、本当に咲夜姫だったの?そうなの?」
「希空。今は、希空よ。咲夜姫ではないわ」
創宇は、黙って、希空の手を取り、頷いている。
「終わりだ・・・咲夜姫を連れて行かなければ、九州は終わる」
呟く菱王に、桂華は、声を荒げた。
「あなた達!どうして、自分の事しか、考えられないの。咲夜姫は、自分の事以外の事を考えていた。なのに、みんな咲夜姫を利用しようとして・・・」
創宇の辛さが身に染みる。
「いいんだ・・・」
長い時間を超えて、やっと会えたのに。
「君は、自分の時間を歩んでいたんだ・・・よかった」
咲夜姫は、もういない。
ここに居るのは、その魂を受け継いだ者。
彼女とは、全くの別人。
「全て・・・僕の夢だったんだ」
創宇は、冷たくなっていく、希空の額に、触れた。
「こんな事って・・」
赤く染まる空を仰ぐ。
降り注ぐ火球の間をボロボロになりながら、飛び交う陸峰おの影が
見えた。
「本当に、このまま、終わるの?」
桂華の全身を熱い思いが巡っていった。