咲夜姫からの伝言
「待って!」
声を上げたのは、希空だった。
陽葵を助けようと動いていた陸鳳も、驚いて顔を上げた。
それぞれが、希空の動向を見守っていた。
「私が、咲夜姫なら・・・行きます」
希空自身、自分がそうだと言われても、納得できなかった。
何故なら、記憶がないから。
勝手に、周りで騒いでるだけ。
太古に、星から訪れた咲夜姫が、自分かもしれないと言われても、ピンと来なかった。
「その代わり、証拠を見せて」
「証拠は、必要ない」
菱王は、言った。
「向こうに(九州)に行けばわかる。鉾を元に戻せるのは、咲夜姫でしかないのだから」
「でも、もし、違かったら・・・」
「その時は、死んでもらうしかない」
「杜の都をそのままにして行ける訳がない」
厳しい表情で、創宇が言う。
希空が、咲夜姫と認めた訳ではないが、可能性がある以上、看過できないとの考えだった。
「六芒星の陣を修復する必要がある」
「修復には、逃げ出した鼠を見つけなくては、ならない」
陸鳳は、言った。
「逃げ出した鼠でなくても、いいのでは?」
六芒星の陣を守る獣神は、それぞれに意味を持つ。
鼠の獣神が、意味していたのは、誕生。
炎の馬が、死。
二つ合わせて、転生=輪廻を表す。
「創宇。どうして、咲夜姫が、生まれ変わると思った?」
陸鳳は、聞いた。
「戻ってくると言ったのか?」
思い起こしても、咲夜姫は、六芒星を託すと言っただけで、戻るとは言っていない。
「どうして、そう思ったのか?」
「どうしてって・・・」
「この古城は、六芒星の中心というだけじゃない。咲夜姫のメッセージだったんだ。獣神、それぞれが、暗号の様に、意味を持つ」
「あぁ・・・」
創宇は、思い出したかのように、膝から崩れ落ちた。
「長い間に、忘れていないか?自分の故郷に帰らなかった、咲夜姫が何を言いたかったのか」
「咲夜姫は・・・」
故郷がありながら、帰らなかった。
仙台の街を、災厄から守る為、陣を張った・・・そう、思っていた。
「そうじゃないんだ」
陸鳳は、言った。
「大事な事を忘れている」
その時、大きな地響きが起こった。