崩れゆく故郷
陽葵は、迷っていた。
咲夜姫を連れ出す。
それは、陸鳳の前から、彼女を隠すという事。
自分の為を思って言うのか。
菱王の気持ちは知れない。
「どちらにとっても、損はない筈」
菱王は、そう言った。
彼も、何かに追い立てられてた。
そのままでも、彼は、咲夜姫なる者を連れ出すだろう。
自分が、手を下さなくても。
「私が手を下すときは、きっと、取り返しがつかなくなる。あなたの手で、行う方が良い」
「どういう事ですか?」
「私には、時間がない。荒々しい方法は、とりたくない」
「荒々しい方法?」
珍しく菱王は、笑った。
その笑い方が、気になる。
「その方法は、山神達を傷つけるの?」
嫌な予感しかしない。
「否定はしない」
「傷つけるの」
「時間がない」
呟く菱王の肩に、一羽のカラスが止まった。
足が、三本あるカラスだった。
耳元で、何か、呟き、菱王の顔色は、ますます、悪くなっていった。
「残念だけど、君を待っていられなくなった」
「え?」
そういうと菱王は、持っていた剣を地面に突き刺した。
「え?」
跳ねる地面。
耳をつんざく風の音。
地表の物を薙ぎ倒し、上や下へと風が渦巻く。
「何が?」
起きたのか、わからない。
わかるのは、体が、上や下へと、回転している事。
「菱王?」
これは、彼の能力なの?
そう思った時に、宙から、多くの火球が降り注いできた。
「とうとう、この時が来た」
その声に、顔を挙げると、そこに立っていたのは・・・。
元は、菱王だったと思わせる異形の人物だった。
「誰?」
一回りも、大きな、鬼の面にも見えるその顔。
美しい顔をした菱王とは、全く別の姿だった。
「とうとう、時間が来てしまった」
菱王は、苦しそうに呟く。
「もう、待っていられない・・・」
「何が起きたの?」
「見ろ・・」
遠く指さす方向の空が、茶色に染まっていた。
「九州の鉾が、抜け落ちたようだ・・・」
・・・と言う事は。
「巨大な地震が、悲劇を起こす」
そう言うと、菱王は、三本足の鴉と宙に飛び立って行った。