記憶に留まる方法
陸鳳
霊峰 三山の山神
自分にとっては、遠い存在だった。
あの日、傷付いた陸鳳を命をかけて助けたのは、
陽葵だった。
ショックで記憶を失った彼に、自分が家族だと嘘をついた。
描いていた幸せに手が届きそうだった。
夢だと思った。
一緒にいられる事が幸せだった。
なのに。
現れた桂華は、よく覚えている女性だった。
「神女だと」
皆は、村に現れた若い女性に視線が釘付けになった。
「神女?」
あまり聞かない言葉だった。
見ると、
幼い少女が廃校に、入っていく所だった。
「誰か、攫っちゃえよ」
「元は、人間の子だ。食ってしまえ」
「いやいや、神隠しにして、困らせようぜ」
みんな、幼い彼女に興味津々だ。
「ダメだよ・・・彼女は、山神兄弟の弟の許嫁になるんだ」
「え?」
「あの半分、人間の?」
「出来損ないと聞いている」
「弟は、手がつけられないって、聞くよ」
「睨まれたら、厄介だ」
「関わるな!関わるな!」
誰もが、関わらないと決めた時、その少女は、廃校に閉じ込められた。
「どうする?」
「どうする?」
誰もが、心配した。
雪深いこの地で、閉じ込められると、命に関わる
「関わるな!関わるな!」
誰もが、去って行ってしまった。
「私は・・・」
陽葵は、幼い少女を助けに向かった。
非力であった。
彼女を助けるには。
だが、
陽葵は、寄り添うことで、命を助ける事ができた。
あの時の・・・。
陽葵は、複雑な思いで、桂華を見つめた。
「助けなきゃ良かった」
「山神の許嫁なら」
もし・・・。
あの時に戻れるなら、
自分は、この少女を助けるだろうか。
迷う陽葵に、菱王は、呟いた。
「名乗るんだ。あの時、助けたって・・・そして、彼女を連れてこい」
「どうして?」
「わからないか?あの女が、咲夜姫だ。違いない」
「彼女が?」
「神女として、あの地に現れた。咲夜姫が、人の中に隠れるなんて、考えられない」
「逆に、目立つ訳がないわ」
「いや・・・神女なんだ。もし、咲夜姫でなくても、使い道はある」
「どうするの?」
「守らなくては、ならない地は、他にもあるって事だ」
「他って?」
「もう一つの地・・・九州だよ」
「九州?」
「霊峰は、そこにもある」
「咲夜姫がいなくなれば、お前の思いのままだろう?」
「それは・・」
陽葵は、揺れていた。