リリス正教の本性
「あのままでは死ぬしかなかったというのに・・・!この御恩は一生忘れん!」
ほぼ瀕死の状態から助けたドワーフから感謝の言葉を伝えられた。この男の名前はグリュード・ランペルーサという人物らしい。
なぜあのような状態でこの道付近を歩いていたのか。その理由をグリュードから聞くことにした。
「どういたしまして。それはそうとあの傷は誰からやられたものなんですか?」
実はと紡がれた口からは想像も絶しがたい内容が告げられた。
以前、グリュードはリリス正教の信者であり、仕事が終わった後は毎日あの教会に祈りを捧げに行っていたという熱心な信徒であった。
だが、いつもより仕事が遅くなり普段とは異なる深夜にあの教会を訪れていた。教会は遅くとも18時には閉まっており、グリュードが行ったときも教会の明かりも消えていたため帰ろうとしていた。
その時、明かりが消えている教会から話し声が聞こえてきた。
「なんだまだ人がいるじゃないか。祈りをささげて帰るかの」
教会の扉を開けようとしたとき、教会からは匂うはずのない血なまぐさい悪臭が鼻孔に漂ってきた。
扉を少しだけ慎重に開けると思わず声を上げそうになり口を塞ぐ。
グリュードの目に映ったのは、教会のローブを羽織った人間が白いテーブルの周りを囲っていた。
夜更けにテーブルを囲んでいれば普通の食事の風景と思うであろう。ある一部を除けばの話だが。
「あぁ我が御身よ、このような不躾者を我が教会の門に潜らせたことをお許しください!!」
半狂乱になりながら1人の教徒が手を組みながら跪き、祈りを捧げていた。教徒の前にテーブルが鎮座しておりそのテーブルには首のない血まみれた人が横たわっている。
周りにいる教徒も習い、同じように跪いて祈りを捧げてる。
その光景を見ていたグリュードは激しい吐き気に襲われる。腹に溜め込んでいた今日の食事が戻してしまいそうになるのを堪えて踏みとどまる。
その場を去ろうと前方を見ながら後退りすると背中に軽く何かがぶつかる。
「こんな時間にお祈りしにきましたか?なんと献身的なことですね」
背後から声をかけられ後ろを振り返ると同時に腹部に強烈な痛みが走る。
地面に膝をつき、振り返り、顔を見上げるとこの教会の最高司祭にあたるアルガス司祭そのものだった。
右手にはグリュードを刺したと思われる、真紅に彩られたナイフが握られていた。
そこからはグリュードは教徒から追われ、この街道まで刺されながらここまで辿り着いたというわけであったとのこと。
「あいつか・・・」
グリュードの話を聞きながら、アルガス司祭の顔を思い浮かべる。俺と目が合い強烈な威圧感を放ってきた人物であると予測する。
元からきな臭い教会だと思っていたが、裏ではあんなことをしていたとは。無意識に拳をにぎり力がこもる。
リリス正教は一般的に公開されている表の姿と裏の姿があることをセトから聞いていた。どこからそんな情報をと聞くと図書館であると言っている。
そんなダークな情報を扱っている図書館がどこにあるといいたくなる嘘だが、情報として正しいのは本当なのだとグリュードの証言から納得がいった。
『なんとそんな惨たらしい、非人道的な行為を行う教会があるとは!なんと嘆かわしい!」
グリュードを治療した後は後ろで黙って話を聞いていたセトは急に大袈裟なリアクションを取りながら語り出した。
『それに加えて我が教団はどうだ!見ず知らずのドワーフを無償で治療をし、慈悲深い御心を持った司祭と神がいるではないか!』
そんな慈悲深い教団がいるなんて驚きだなー。俺が言ったなんでもするってことも無償にしてくれないかな。
『その教団の名は・・・!』
「その教団の名前はー?」
『・・・まだ秘密だ!グリュードと言ったな!貴様がこの教団に入るのならば教えてやらんこともない!!』
名前も教えないような教団に入りたくなるのは些か疑問だが、冷静に考えればまだ名前すら決めてないからな。気恥ずかしくて先送りにしていたこともあるが、鍛治の手伝いがきつすぎてそんな暇がなかったというのもある。
しかし宗教関係に手を出して痛い目を見たグリュードが即差に入ってくれるのかと疑問ではあった。
というか教団に入るメリットがこの教団の名前を知るだけとかメリットが薄すぎる。
「そうしたのは山々じゃが、リリス正教はちゃんとした手順ではないと死が与えられるという戒律があるのじゃ……」
そんな戒律がある宗教なんぞ、なんで入ったか甚だ疑問だがせっかく助けた命をすぐに捨てられては困るというものだ。
『そこは気にするな。正規の手順を踏まなくても抜けられるを我は知っておる』
三日月様に口角を上げた状態で、背丈の低いグリュードを見下ろしながら交渉する姿は魂を代償に願いを叶えようとする邪神にしか見えないのは俺だけなのだろうか。
しかしグリュードは誘いを渋っている様に感じる。俺たちの教団に入りたくない訳ではなさそうだが、他に理由でもあるのか。
『ならば貴様の願いを一つ叶えられる範囲で叶えてやろう!これでどうだ!文句あるまい!!』
俺の心の声が聞こえてたみたいで、追加で願いを叶える特権までつけてきやがった。
ふざけるな。俺の時は半ば強制的に入団させたじゃねーかと忌々しい邪神を睨む。
「・・・であれば恥を承知で一つ、お願いしたいことがあるのじゃが」
「この先に小さな鍛冶場があってそこに鍛治師がおる。そこにおるのはワシの1人の娘なのじゃが、あいつもワシと同じようにあの教会に通っておるんじゃ」
『ほう?』
グリュードから話を聞くと、あの教会は家集制で信者を増やしているらしく改宗したり、宗教をやめることを禁じているらしい。
家宗制とは家族ぐるみで宗教に帰依することであり、他の国では宗教の自由が決められている。しかしこの国では宗教に重きを置いており、巨大な宗教団体が政治に深く関わり政策や法律などにある程度口出しする権利を持っていることがある。
その中で宗教の信仰に自由が決められていないこの国では、生まれてきてから自分がどの宗教に帰依するかはある程度決められてしまう。その理由の一つに家宗制となっている。
「ワシの親がリリス正教に入ったことで、ワシや娘も自動的にこの宗教に入っていることになる」
「今まで何も疑問に持たずにリリス様を崇拝しておったが、今になっておかしいと思う場面もあったが・・・」
グリュードの酷く落胆し切った表情を見れば気持ちはわからんでもないと思う。
俺もあの人と出会わなければ、前の教会で戒律は絶対という考えになり、セトを酷く恨んでいたに違いない。
『さて、小僧よ。ここに我ら教団に入りたそうにしている哀れな子羊がいるではないか』
『しかしここで問題なのが、自由を求めている子羊が浅ましく、矮小な別の教団に縛られているではないか』
さてどうするかと俺に目配せをしてくる。こいつに目は存在しないので、目配せをしているのかは定かではないが何となく俺に決めろと圧をかけてくる。
俺はグリュードに手を差し伸べ、こう話しかける。
「俺がどこまで助けになるかはわからないけど、困っている人がいるなら差し伸べるがこの教団の理念と思っている」
正直この爺さんとあったのは初めてだし、そこまでする義理はないと思っている。だが虫の居所が悪いのも事実だ。
差し伸ばされた手を、震えながら涙を瞳に浮ばせながらグリュードは強く俺の手を握った。
話のストックが切れてきました。
投稿頻度が遅くなってくると思います。
拙作を読んでいただいている皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。