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他宗派の状況

トリアにつられてきた鍛治場から歩いて20分どほ歩いたところ、以前住んでいた教会よりも小さな教会があった。奇妙な紋章を掲げた旗が教会の屋根につけられていた。


「ここで二トさんは神の恩恵を受けることができるんですよ!素晴らしいとは思いませんか!?」


「あぁ、素晴らし素晴らし・・・」


何が素晴らしいかわからないが、なされるがまま腕を引っ張られ続けてここまで連れてこられたことに軽い憤りを感じながらここまで連れられてしまった。


「あっ、親衛隊のみなさんお疲れ様ですー。」


顔馴染みなのだろうか、顔を見るや否や教会の門を開ける門番の顔には疲弊し切った表情が浮かんでいた。ここでの労働がきついのか、それともこいつに構われるのが嫌なのかは半々といったところであろうか。

開けられた門は以前の宗教と変わらない構造であった。ただ一点を除けば。


中央の上には教会のステンドグラスの上に女性の石像が飾られていた。淡麗な姿形作られたそれは見る人を魅了する造形に仕上がっている。しかしその石像は両腕を真横に広げ貼り付けられており、手の平には杭が打ち込まれていた。また心臓付近にも指3本分もありそうな杭が刺さっており、何か罰を与えられたような造形に違和感を覚える。

そんな石像を見ていて周りは祈りを捧げており、感謝の言葉を述べていた。


「ッ・・・」


しかしこいつはどうも違うらしい。俺の手を握っていた手は力がこもっており、顔は青白くなっていた。


「・・・さぁ、ここがリリス正教の一角、ルドリアス教会です!総本山の大聖堂と比べると規模は小さいですが、信者の熱意は負けてませんよ!」


そんな表情で勧誘はさせまいと気丈に振る舞っており、聖堂の座席へ俺の手を引きながら座らせた。

時間は正午前、確かリリス正教ならば夜明け、正午、午後3時、6時の間隔で祈りを捧げるはずだとセトが教えてくれた。

少し待っているとここの司祭と思われる人物が姿を現し、教会の壇上へ立つと一礼をする。


「皆様、ご足労ありがとうございます。本日も皆様とこの至高な場を迎えられたことを深く、深く感謝を述べます」


柔和な笑顔と物腰の柔らかさ、イケおじといった要素で信者の婦人を虜にしていた50前後の司祭と目があった。

その瞬間体からゾクリとした悪寒が全身に走った。呼吸がしづらくなり、軽い眩暈を引き起こすほど負のオーラを纏っていた。

しかしその司祭は路傍の石を見るかのような表情で、俺から目を離す。すると悪寒と眩暈は収まり、何事もなかったように再び喋り出した。


「ここに集まった方々は貧富の差はあれど、みな同じ人間です。我らが神、リリス様は平等に祝福を与えるでしょう」


演説のようなものが終わり、壇上から降りると拍手喝采がその場に流れた。

絶大な人気と喋るだけで浸透してしまうようなカリスマに恐れを抱きつつ、その姿を視界に捉え続けていた。


『何を驚いている貴様は。我を崇拝する信者であるぞ。あのようなものに気圧されては話にならん』


「崇拝はしてねぇけどな」


雰囲気に気圧されそうになった俺をセトは鼓舞するかのように脳内で声をかけてきた。

こいつなりの励ましだろうか、似合わないと思いつつ心の中で感謝した。



強烈な印象を残して壇上をおりた司祭が見えなくなった後、残された信者たちは聖歌を歌い祈りを捧げて解散していった。

俺も流れに乗り、その場を後にしようとしていたが人混みの中から手が伸び、再び手首を掴まれた。

正体は俺をここに連れてきた、トリアであった。

顔を見るとニコニコと人当たりの良さそうな笑みを浮かべていた。しかし掴んだ反対の手は後ろに隠れており、その手には俺に押し付けようとしていた装飾品が見え隠れしていた。


「二トさんいかがでしたか?」


「あぁ、素晴らしすぎてこの感動を忘れないよう、早く家に帰ってしまいたいくらいだ」


可愛らしい笑顔とは裏腹にかなりの力で手首を引っ張りながら体を寄せてくる。甘い匂いと淡麗な顔立ちに動揺してしまいそうになるが、ここで手痛い出費をしたくない。脳内でセトに呼びかけると彼女から見えないよう触手が俺の背中から臀部、膝裏から足まで這い寄り地面を駆ける。そのまま彼女の足に絡みつく。


「きゃあッ!」


触手の生温かさに怯み、手の拘束が緩む。その隙に自分の手を引いて距離をとり、赴くままに走り出した。

セトの気まぐれなのか、俺の指示通りに動いてくれたのは感謝でしかない。

だがこのスキルを当てにするのは避けたい。以前のように好き勝手に暴れて前の教会の人達に居場所がバレるのは得策ではない。

そのようなことを考えながら足を進めるのであった。


林を抜け、後ろを振り向きつつ、無我夢中に走り続けると彼女の姿は次第に見えなくなっていった。

徐々に速度を落としていき、息を整えるように走りから歩きに変えて行く。


「ここまで来れば大丈夫か・・・?」


後ろを振り返ると走り抜けてきた森と小さく教会が見えるだけで、人影は見当たらずひとまずは安心とため息を吐いた。


『全くあのような小娘から逃げるとは情けない』


「あのまま対峙していたらあの娘を触手まみれにする気だったくせに・・・」


言葉にしてセトに悪態をつく。今までの経験からするにこいつは自分が楽しければいいという傍迷惑な邪神だと薄々感じていた。今までこの街に来るまで以前いた教会の追っ手を追い返す際に軽く足止めをすればいいものを、触手を体に這い寄らせたり、粘液まみれにして面白おかしそうに弄んでいた。

そのせいで追っ手に余計な怒りを買わせて、ここに来るまでの道中が長引いたのはこいつのせいでもあった。


『まあ良いではないか結果的に上手くいったのだから』


「そりゃそうだけど・・・」


こいつの悪癖に一々付き合っていたら心労で禿げてしまうと思い、思考を切り替える。

とはいったものの我武者羅に走っていたが後数100mもすれば鍛冶場に辿り着くことに気づき、帰路を進めた。

仕事を途中で抜け出したため、どやされるんだろうなと嫌な気持ちを引きずりながら。






鍛冶場に帰り、仕事を勝手に抜け出したことを怒られるかと思いきや何事もなかったように対応され、残りの仕事さえやってくれれば良いといった感じだった。

拍子抜けしたと思ったが、俺が来る前も仕事仲間が突然姿を眩まずことも少なくなかったとのことだ。

鉄を撃ち続けるその顔は諦めの表情も感じ取れていた。

その姿に軽い同情を覚えながら俺は残りの仕事に手をつけ、終わったとこで廃教会へ帰って行った。



普段と比べればやや遅い時間は暗闇に染まり、街頭の一つもない道を俺は突き進んでいた。

廃教会は鍛冶場から北西に500mほど歩いた先にあり、その道は道路整備されていない獣道といっても差し支えない程度には悪路であった。

その悪路を歩き始めて数分もしないうちに自分とは違う足音が聞こえる。草木をかけ分ける音と共に荒い息遣いが聞こえ、段々と近づいてきた。


「魔獣か?」


セトに声をかけ、気配を探るようにお願いをしたがその返答が返ってくる前にそいつは正体を現した。

それはライナードと同じ背丈をしたドワーフであった。ライナードと違うのは身体中血まみれになっており、今にも行き倒れそうな姿をしていた。


「ぅうっ」


俺のそばまで近づいたその人物は目の前でうつ伏せで倒れてしまう。慌てて近づき仰向けにすると、暗闇で隠されていた顔が顕になり、その姿を見た俺は思わず吐き出しそうになる。

その顔にはまだ新しいと思われる血がべっとりと付着しており、それ以上に驚愕したのは顔にあるべきものが人為的に剥ぎ取られていたからだ。

左右で対となるべき、目と耳が片方づつ失われていた。

吐き気に襲われつつ、その人物を観察してみる。魔獣か何かに齧られればその断面は歪になっているであろう。しかし断面を見る限り、鋭利に刃物で切り取られたであろうと予測ができる。

そんなことを考えていると、倒れた人物はむせ込み口の中にあった血を咳と共に吐き出す。


「大丈夫ですか!?」


「はぁ・はぁ、大丈夫なわけがなかろうて・・・」


激しい息遣いとこの喀血の量。それに加えて体全体を見渡してみると刺し傷と思われる傷口から停めどなく血が溢れ出ていた。10箇所に及ぶ刺し傷で移動できたのはドワーフの頑丈さの賜物であろう。しかし助かる可能性は少ないと思うが、俺は持ち運んでいたバッグに手を伸ばそうとするが腕を掴まれ止められた。


「この傷では助からんとワシもわかっておる。それよりもワシの言葉を聞いてくれんか」


腕を掴んだのは今にも息絶えそうなドワーフ本人であった。屈強なドワーフに軽く掴まれただけでも骨が軋むその腕力は弱々しく俺の手を掴む。

確かにこの傷と血の量じゃ助かる可能性は少ない。だが目の前の人物さえ助けられなければ何が司祭だ。一匹と1人の教団だが、それでも教団を作ると誓ったからには手を差し伸べるべきだと俺は思う。

そう思い、頭の中でセトに声をかけた。


「おいセト!お前の力でなんとかできないか!?」


悔しいが俺にはこの人を助ける術を持っていない。藁にも縋る思い邪悪な神様に声をかけたその瞬間。


軽蔑と共にセトがが始めて俺に向けた冷たい怒気。あの教会で向けられた殺気以上の気配に寒気と更なる吐き気が俺に襲いかかる。こいつと過ごした日々は辛くもあったし、ムカつくこともあったが、それでも楽しいと思えるような日常を過ごしていた。

しかしその過ごした日々を忘れ去るくらいは威圧感を俺に放っていた。


『貴様と我は主従関係にある。可愛い信者の頼みとあらば聞き入れてやらんこともない。だが見ず知らずのドワーフ如きになぜ我が力を貸せねばならん』


こいつがなんでこんなに怒っているのかは俺が知る由もない。だがこいつの力を借りなければこのドワーフは後数時間にもしない内に死んでしまうであろう。

少ない知恵を絞り、こいつが聞くであろう代償を話す。


「なら俺の聞ける限りのお前の頼みを聞いてやるそれで勘弁してくれ!!」


「・・・なぜそこまで出会しただけのものにお前はそこまでやるのだ」


「理由なんか分からねえ。だけど目の前で辛そうにしている奴を救えないで何が司祭だ!!手に届く範囲にいるものも、届かない範囲も救えるだけ救いたいって思うのはおかしいことなのか!!それが俺の理由だ!!!」


息を切らしながら俺の思いを叫び、このドワーフを救う理由を伝える。もちろんこの世を生きるためには金もいる。

だけど根底にあるのは、俺のような戦争孤児でも頼れるような教団を作ていければいいと心に秘めていた思いだった。

俺の言葉を聞き、セトは数秒黙ると。


『・・・仕方がない。特別サービスだ』


気まぐれであるかもしれないが邪神は俺の背中から触手を生やす。そのまま触手はドワーフを包み込むように覆い被さった。ドーム上にドワーフに被さった触手は蠢き、時折禍々しい緑と紫の光を放つ。

そして10分経った後、触手はドワーフから離れると刺し傷と血に染まっていたが、元からなかったかのように消えてしまっていた。



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