拉致監禁という名の労働
ライナードから半ば拉致された状態で、町中の人々から胸に顔を埋めているところを確認されてしまった。
穴があったら入りたい。
担がれて数十分したところで、急に肩から下ろされた。その反動で地面と口付けをかわす羽目になってしまった。
ふと顔をあげてみると子供がギリギリ入れそうな小さな家に煙突がついたさらに小さい小屋が目に映ってきた。
「ほらついたぞ!アタシについてこい!」
言われるがままライナードについていき、小さな家へ入った。
するとレンガ調の屋内に、木の椅子やベッドなどここで居住しているのがわかった。しかしドワーフのサイズに合わせて作られているのか、やや子供の俺でもサイズが小さかった。
手招きして腰をかけろと合図してきた。腰掛けるとライナードはキッチンに行き、コップに水を汲み、一枚の羊皮紙を持って席に腰をかけた。
「これがうちの大まかな労働書だ。水でも飲みながら、軽く目を通してくれ」
出された水を飲みながら、労働書に目を通すと、朝9時からここに集まり朝昼晩の食事の提供、釜戸に火をつけるための薪の採取。鍛治のサポートと完成品の配達といったところだ。
見た印象はお手伝い+配達員の仕事が加わっているということか。帰宅時間は例外はあるが、基本的に19時にはここを出れるといったものだ。
「他に従業員は?」
「前に2〜3人いたが、持病の悪化とか家族の危篤だとかでみんな辞めちまいやがった」
それほどここの労働環境が過酷なのか嘘っぽい理由を並べて出て行ったということだ。
給金は日給8000ダラーとそこまで悪くない。斡旋所で見た金額お中では一番ここが高かったし、今更逃げてもここに連れ戻さそうな勢いでここにつれてこられたのだ。
ある程度ここで働いて、代わりの人材をここに勧誘してお暇させてもらうと考える。
そもそもここの町に長居することはない。人材を確保するにしても、ここは絶対数が少ないため教団を大きしていくのは少々心許ないからだ。
「なるほど。俺も事情があって長くは働くことができないですがそれでもいいでしょうか?」
「ああ、代わりの人材を持ってきてもらったらな」
意外にもすんなり願いを聞き入れてくれた。もしや融通が効く人ではないかかと考える。従業員になるであろう俺にも水であるが、出してくれた。
『人をそう簡単に信じるのはどうかと思うがなぁ。貴様はもう少し人を疑った方が良いぞ』
(お前人の思考が読めるのか?)
『貴様が顔に出過ぎるだけだ。人を導く立場になるのであればその癖を治せ』
ぐうの音も出ない。教会の同期とも会話している時に考えていることが分かり易いとも言われたことがる。今後は注意して会話するように心掛けると決意したのであった。
ここで働き始めて数週間が経った。初めのうちは分からず、怒鳴られることもあったが徐々に慣れてきた。今は釜戸の火のために薪を切っているところだ。その間、ライナードは国から発注された剣や槍などを作っている最中で、今の時間が1人でいる時間だ。
『そろそろ宗教の拡大について具体的に考えていこうと思う』
「具体的にとは?」
ある程度薪を切り終え、あとは集めて釜戸のすぐそばにある小屋まで持って行けばいいと思い、地面にしゃがみ込んで話を効くことにした。
『宗教を作るにあったって、教祖がいなければただの烏合の衆だ。しかし信者が集まっても協力者がいなければ団体の活動に支障が出る。かといって教祖が愚物であれば教団は崩壊を招く』
『まずは協力者から集め、次に信者。同時進行で教団の戒律などを作っていけば良い。そして同時進行で貴様に人の上に立つものとしての知識を学んでもらう』
「なんでそんなことを知っているんだよ」
『町の図書館で得て参考にした』
たまに背中から這い出て、どこかに行っていると思えばこんなことをしていたのか。
最近知ったことだがこいつは分離して行動できるが、長時間は活動できないらしく数時間で帰っては背中に入り、また出ていくという行動をしていた。こいつの生態も把握しておく必要があるな。
しかし、こいつの風貌で図書館に入ったのか不明だが、深くは考えないことにした。
「協力者を見つけていくのは、この町から1人でも見つければいいほうだな」
『まあそうだな。信者も徐々に増やしていき、ここから近いソラリア町で主に活動していければ良いか』
ここから1km歩いた先にソラリア町というここより大きな町がある。人口も多いし、比較的栄えているうちに含まれるだろう。
「お前のことだから、脅して信者とか協力者をとか言い出しそうだから安心したよ」
過ごしていく中でわかったことは頭は良いが、その場のノリで人を貶めようとする嫌いがある。人がどうなろうと関係ないが、俺にまで危害を加えようとするからな。恐怖政治とかいつかしそうでヒヤヒヤする。
『・・・恐怖で従えてもいずれは崩壊するのが定めだからな』
セトから少し昔を懐かしむような感じがした。こいつがただのスキルではないことも重々承知しており、こいつがどういう経緯があってスキルとして扱われるようになったか気になる。しかし今考えてもしょうがないと思い、思考を再び切り替えた。
『一先ず、貴様はここで仕事を続けて資金を得ろ。良さそうな人材がいたら我を呼べ。我は再び情報収集をしてくる』
セトはキビツを返し、町の方へ歩いて行った。
俺も薪の仕事が終わったら、町へ配達に行く仕事がある。その際に情報収集と人材がいれば勧誘してみようかと模索するのであった。
ライナードさんの主な仕事相手は町の商人、たまに国のお偉いさんへ武器や装飾品を作るのがメインとなっている。
町の商人へ届けるのは徒歩でも可能だが、国のお偉いさんのところまでは行くのは難しい。
そこで町で少数だが、運び専門の魔獣を扱っている配達屋がある。
魔獣は基本的にその辺にいる動物よりも危険性があったり、作物を荒らすため抹殺対象となるのだが、ごく稀に友好的な魔獣が存在する。
それがヒトノセドカゲだ。ふざけた名前をしているが、寿命も百年は生き、馬よりもスピードが出て、人に懐きやすいという性質を持った魔獣だ。
テイマーでない限り、人に懐く魔獣は少ないがこいつは餌を与えておけば懐きやすい魔獣だ。
竜車とも呼ばれ、乗車している際に大きな揺れも防ぐスキルも持っているため人だけでなく、物資も運ぶことができる万能生物だ。俺もいつか乗ってみたいと思いを馳せている。
レフォルマ配達所に到着した俺は従業員さんへ荷物を渡し、依頼物と届け場所を羊皮紙に記載した。今回の荷物は装飾品が主だったため、そこまで苦ではなかった。これが武器などの重い金属品が増えてくるとかなり重労働となる。台車を使ってはいるが、数10kgある品を15分ほどかけてここまで持ってくるのはセトの触手でサポートしてもらっても大変だった。
従業員さんの確認作業が終わったところで俺もレイナードさんのところまで帰路を進める。
「あの仕事量じゃ、辞める人もいる訳だ」
自分の代わりの人間を見つけるのも一苦労しそうだなと思い浮かべる。自分の代わりの人材がすぐやめてしまうのもかわいそうと思いながら帰るのであった。