まずは職場を探そう
手に斧を持ち薪を割り続けて一時間ほど経ってきた。腕と腰に疲労を感じ、首にかけたタオルで汗を拭き取る。
カンカンと照らされた太陽の日の光を浴びていたため喉も乾いてきた。
木陰で休憩をとり、木で作られた水筒を飲み喉を潤す。
「なんでこんなことやってんだっけ・・・?」
『まず教団を作るのには人材と拠点、資金が必要だ』
セトは聖堂にある階段に腰をかけ腕を組みながらそう語り始めた。
その辺りに転がっていた石をを3つ持ち、その二つは地面に転がして残り一つを宙に浮かせた。
『拠点は不本意だが、ここにするとしても資金と人材は圧倒的に足りていない』
資金に関しては何も持たずに教会を飛び出してきたため、無一文。人材についても1人と一匹、散歩に行くのかと思うほど足りていないのは確かだ。
拠点も薄汚れているが、教会の中を歩き回ったところ、小さい小部屋があった。ベッドと毛布もあり、硬いが寝ることはできた。
しかしこの教会の所有者は誰なのかも聞かなければ、ただの不法滞在者となってしまう。
「ならまずは聞き込みをして、資金を得るための働き口と目ぼしい人事確保からかな」
『ここから300mほど歩いたところに小さな村がある。そこを目指せ』
「なんでそんなことがわかるんだよ」
『古いものだが、地図を見つけた』
やたらに触手を伸ばしてウロウロしていると思ったら、そんなことをしていたのか。この触手がどこまで伸びるのか検証してみたいところだが、検証している間に火が暮れてしまうと思い、思考を隅に追いやった。
歩いて数分したところで、村が見えてきた。
村といっても家が数30軒程度経っているくらいだが、何か争った形跡もない。歳をとって隠居するには良さそう村といった印象だ。
村の門まで近づくと門兵であろう人物に話しかける。
どこから来たのか問われると、以前住んでいた村が魔獣に襲われて亡くなってしまったことを話すと同情的になり、ただで入れてくれた。
正直村のセキュリティが疑われるほど親切にしてくれたが、この年齢とくる途中でボロボロに破れた服が同情を誘ったのであろうと自己完結し、この好意に甘んじて村へ入った。
「仕事斡旋所が村の中央にあるって言われてきたけど・・・」
歩くながら、周りを見渡しながら行くと木の看板でレフォルマ斡旋所と書かれていた場所に辿り着いた。
そこでここがレフォルマ村なのかと気がついた。
レフォルマ村は人口80人ほどの小さな町だ。近くに鉱石が取れる山がポツポツとあるだけで、農業や商業など大きく発展しているわけはないというのが、教会で学んだ知識だった。
「失礼しますよー」
ノックをし中へ入ってみると村人らしき人がチラホラ従業員と思われるものと話をしていたり、羊皮紙でやりとりしているのが目に入った。
立っていると怪訝な視線が突き刺さる。俺の今の格好はボロボロに破れた黒い摺動服に、顔や手には砂埃がややかぶっている。
引き返そうと、思ったところで従業員の女性の方が話しかけてきた。
「何かお困りでしょうか?」
緑色の瞳に金色のショートヘアの背丈はやや俺より高いといったところだ。子供の俺に目線を合わせて話しかけてくれるあたり、優しい人柄なのだと伺える。
「以前住んでいた村が魔獣の群れに襲われ、命かながらこの村に避難してきたところなんです・・・」
やや演技くさい話だが、口に手をあて悲しそうな表情を浮かべていた。
この村の人間はやや人柄が良すぎるのではなかろうかと心配してしまうほどだ。
「俺のような子供でも働けるようなところはありますか?」
従業員の方は顎に手をあて、人しばらく考えた後駆け足気味で裏口へ行く。少し経った頃に羊皮紙を何枚か持ってきて、右側にあるテーブルへ誘導された。
「申し遅れました。私はサフィーナ・スミスと言います」
「俺はノト・ライノスです」
それぞれあいさつが終わったところで、サフィーナさんは3枚の羊皮紙を出して説明してきた。
「ノトさんのご年齢ですと、こちらの仕事がありますね。右から商店の品卸と配送、次に薬剤師の補助で薬草集めなど、最後に鍛治師のお手伝いが当てはまりますね」
「商店の品卸と配送は、お店からお店、住宅へへ商品を運んだり、店長の指示で商品をお店へ配置するのがメインになってきますね。日給は6000ダラーとなっています。薬剤師の補助は隣の森や草原から薬草の採取を手伝ったり、聖水やポーションの作成の補助ですね。7000ダラーです。最後に鍛治師の手伝いは金属の持ち運び、釜戸の薪割り、鍛治師さんの家事補助となっています。日給は8000ダラーとなっていますね」
提示された仕事を見てどれが自分に合うのか、または自分の目的に近づけるのかが重要になってくる。
資金を集めるもそうだが、教団を作るのに当たって人材、信仰者を集めて行くには人との関わりが必要になってくるだろう。
商店の品卸と配送は覚えることは少ないが、荷物の配送も含めるとかなり体力と力仕事になることが予測される。配送するに当たって、人と関わったり、町の配置を覚えていくのもメリットと言えるだろう。
薬剤師の補助については、薬草採取をしていくに当たってそれら関連の情報を収集できる。また薬剤師や治癒師と関わることで、医療方面の人材も増やすことが可能だ。
デメリットは医療関係の人物と関わることで、宗教関係者も関わってしまうことも予測される。聖水を開発するのも薬剤師の仕事の一環であるのも、以前いた教会で薬剤師が司祭に聖水を売っていたことを見たことがある。他の宗教関係者と関わることで、自分の経歴がバレてしまうことはマズイことは確かだ。
鍛治師については正直イメージが湧きにくい。宗教関係者との関係は不明だし、人との関わりも少なそうな印象を受ける。金属の持ち運びなど力仕事も多くなるだろう。
「んー、俺は」
俺が答えようとした時、斡旋所の扉がと勢いよく開かれて大きな声が入り込み声が遮られた。
「頼もう!どこか行きのいい若いもんはおらんかね!」
小さな体躯似つかわない鉄製の戦鎚を担いだドワーフの女性が入ってきた。橙色の髪を一本に纏めたポニーテールを結えて、短い足で大股で闊歩していた。
辺りを見渡してこちらに視線を向ける。関わったらめんどくさい人物と思い、頭を下に下げていた。
その思い虚しくその女性はこちらへ歩みを進めてきて、テーブルを叩いて肩を組んできた。
「ちょうど良さそうな若者がいるじゃねぇか!サフィーナこいつ持っていくぞ!」
「は?ちょっとまっ」
有無言わさず小さい体躯で俺を担ぎ、扉まで運んでいく。
いやいや鍛治師の手伝いは一番ないと考えていたところで、この女性が俺を拉致して闊歩していこうとする。
「ライアードさん、待ってください!その子は今まさに職を極めようとしたととこで・・・」
「ならちょうどいいじゃねえか!うちは金払いも悪くねぇ!そうなればうちに来るしかぇよなぁ!」
なぁと言われましても喋るとしても喋れない。肩を組まれ、彼女首を下ろされる。小さな体躯とは逆に豊満な胸で顔が塞がれてしまい、喋ることができない。けして豊満な胸に屈したわけではない!
しかも首にかけられた十字架のネックレスがちょくちょく首に当たって痛い。
『またまたこの状況を密かに楽しんであろう?んー?』
今の今まで語りかけることなかったセトが急に俺の脳内へ話しかけてくる。
セトは俺の背中の中に隠れているが、ほくそ笑んでいるに違いない。そうとしか思えないほど声色がうわずんでいた。
ライアードと呼ばれた女性はそのまま俺を担ぎながらドアへ開け、斡旋所から出ていくのであった。